中山美穂とキム・ジェウクが語る“年の差恋愛”の先にある人間愛とは?
中山美穂が、『新しい靴を買わなくちゃ』(12)以来5年ぶりの主演映画となる『蝶の眠り』(5月12日公開)で、韓国の人気俳優キム・ジェウクと共演。女性監督チョン・ジェウンの下、2人がつむぎ上げたのは、“年の差恋愛”の先にある、深い人間愛だった。
中山が演じたのは、遺伝性のアルツハイマー病に侵された50 代の売れっ子小説家・松村涼子。彼女は余命宣告を受け、記憶を喪失していく日々に怯えながらも、最後の小説をこの世に残そうとする。そんな涼子を支えるのが、キム・ジェウク演じる作家志望の韓国人留学生・チャネだ。
中山は、難しい役どころの主人公にどうアプローチしていったのか?「まず、アルツハイマー病についていろんな資料を読みました。私は若年性ではなく、老人性の認知症だった祖母をずっと見ていたので、そのイメージも膨らませていきました。チョン・ジェウン監督からは『涼子を強い女性として表現してほしい』と言われました。その強さが次第に弱く、もろくなっていくので」。
劇中同様、インタビューに流暢な日本語で答えてくれたキム・ジェウク。「日本に留学している韓国人役なので、日本語をどれくらい上手く話すかというところを監督と話し合いました」。
また、キム・ジェウクは本作の脚本について「アルツハイマー病という題材を、人をせつなくさせたり、泣かせたりするための仕掛けとして使っていないところに惹かれました」と言う。「これは、涼子がアルツハイマー病になってから、残りの人生をどう生きるかを描いた物語。闘病だけがフォーカスされていないところがいいと思いました」。
涼子の住む家のロケは、建築家・阿部勤の邸宅で行われた。コンクリートの壁と木造の屋根というモダンな家だが、窓からは木漏れ日が入り、実際に人が住んでいるせいか、心地良い生活感も感じられる。劇中では涼子の本棚にある本を、チャネがグラデーションカラーに並び替えるというすてきなシーンもある。
中山はロケの最終日に起きた、まさに映画のようなエピソードを話してくれた。「撮影が終わったあと、窓から蝶が飛んできて本棚に止まったので、すごくびっくりしました。スタッフさんはすでに撤収を始めていたけど、そこでみんながまた撮影を始めて。アゲハ蝶のようにすごくきれいな蝶で、なんだか運命を感じました。本編では使われてないんですが」。
キムも「そうそう」と興奮しながらうなずく。「よく覚えています。僕はイヌを連れて散歩するシーンを撮った時、たまにそのロケ地の近くで蝶を見かけることがありました。ソウルではあまり蝶を見ることができないので、すごく久しぶりに見たなと感じました」。
涼子は最後まで自分の尊厳を守りつつ、チャネとの愛の記録を小説として記そうとする。そして、チャネは最後まで涼子に寄り添おうとするが、涼子は気持ちを押し殺して、彼との関係を精算しようとする。
中山は、涼子の愛し方について「始まりは恋愛のようなものですが、そこから人間愛みたいなものに変わっていきます。チャネとは小説を通してのつながりがかなり大きくあったのではないかと。彼は若いし将来性もある。作家としても頑張ってほしいと願っているからこそ、自分と離れたほうがいいと考えるんです。優しさや愛に基づく行動は、気持ちと裏腹なところがありますよね。すごくせつないけれど、人間はそういうものかなと思います」。
演じたチャネの心情を、キム・ジェウクはこう読み取った。「その年頃の男性なら、涼子の取った行動はきっと理解できませんよね。自分は最後まで一緒にいたいし、責任を取りたいという気持ちが絶対にあるから、悔しいと思うでしょう。しかも涼子の元夫は、背が高くて大人で、すごくカッコいい人で、どう見ても勝てないと本能的にわかっちゃう。チャネとしてはすごく複雑な気持ちがあったと思う。きっと僕も20代だったらそう感じるんじゃないかな」。
現在公開中の、人気コミックを実写化した映画『ママレード・ボーイ』で、破天荒な母親役を好演した中山は「年を重ねていけばいくほど、役柄の幅は広がっていくと思っています」と語る。
するとキム・ジェウクから「この前、ラップを歌う役を演じられたんですよね?それ、すごく観てみたいです」と言われ、照れながら「楽しかったですね」と笑う中山。
「別の作品でラップに挑戦しました。初めてのことをやる怖さは常にありますが、怖がらずになんでもやってみたいんです。そのスタンスは昔から変わらないけど、若いころはラブストーリーの似たようなヒロイン役が多くて。今後ももっといろんな役をやっていけたらいいなと思います」。
キム・ジェウクは今後の抱負をこう述べた。「目標とかは立てないタイプなんですが、中山さんがおっしゃったとおり、年を重ねて役が広がっていくのはいいことだと思っています。僕も親の役を演じられるような年になってきたので、いつか演じてみたい。また、国とかは関係なく、いい作品であればなんでもやってみたい」。
中山が「ぜひ、日本の作品にもたくさん出てください」と言うと、キム・ジェウクは「頑張ります」と力強い笑顔を見せた。
取材・文/山崎 伸子
スタイリング:十川ヒロコ
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