脂肪も筋肉も蓄え増量したホアキン・フェニックスが、“トンカチ”で戦うアウトサイダーに!?
早世した映画俳優リバー・フェニックスを兄に持ち、『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』(05)や『ザ・マスター』(12)などの作品で、3度のアカデミー賞ノミネートの実績を持つ性格俳優ホアキン・フェニックス。そんな彼が主演を務め、第70回カンヌ国際映画祭で男優賞を獲得した話題作『ビューティフル・デイ』が6月1日(金)より公開される。
皇帝からヒッピー探偵まで、強烈な個性で役になりきる
これまで主演、助演にかかわらず様々なジャンルの作品で多彩なキャラクターを演じてきたホアキン。2000年公開の『グラディエーター』では野心的な皇帝・コモドゥスに扮し、主演のラッセル・クロウに引けを取らない強烈な存在感でアカデミー助演男優賞に初ノミネート。そのほか、スパイク・ジョーンズ監督のラブストーリー『her/世界でひとつの彼女』(13)で人工知能「サマンサ」の声に惹かれる傷心の中年男性を等身大で体現し、『ザ・マスター』に続く盟友ポール・トーマス・アンダーソンとのタッグ作『インヒアレント・ヴァイス』(15)では、70年代のロサンゼルスを舞台に大暴れする主人公のヒッピー風の私立探偵をハイテンションかつコミカルに怪演してみせた。
確かな演技で哀愁漂う中年男性の孤独な戦いを体現
『ビューティフル・デイ』は『少年は残酷な弓を射る』(11)のリン・ラムジー監督が6年ぶりにメガホンをとったクライム・サスペンスで、ホアキンが演じるのは行方不明者の捜索を請け負う元軍人のジョー。ある日、彼は州上院議員の男から娘ニーナの捜索依頼を受けたことから、恐るべき陰謀が渦巻く人身売買組織との戦いに身を投じていくというもの。
説明的な描写や感傷的な表現を極限まで排した本作。目を引くのは、淡々と映しだされるホアキン演じるジョーの孤独な戦いぶりと、脂肪も筋肉も蓄えた髭面の中年男性という哀愁を漂わせるそのビジュアル。しかし、愛用の武器であるトンカチを容赦なく敵に振り下ろしていく姿は、鮮烈でスタイリッシュさを感じさせる。一方で、暴力描写だけでなく、過去の記憶に苦悩するジョーの繊細さに説得力を持たせられるのも、ホアキンの確かな演技力あってのことだろう。
ソリッドな演出と美しい映像で、寡黙な男ジョーと天使のような少女ニーナのせつない交流を描く本作。カンヌを沸かせた本作で名優の熱演を堪能しよう。
文/トライワークス