漫画&アニメの実写化だけじゃない!山崎賢人が『羊と鋼の森』で見せた成長
天皇、皇后両陛下がご鑑賞されたり、新宿御苑での初の野外上映会を実施したりと、6月8日(金)の公開を控えジワジワ注目を集め始めている『羊と鋼の森』。その話題作に主演した山崎賢人が、優しくてきめ細やかな演技を披露している。
豊かな表現力で、実直な主人公を好演
本作は、将来に何の目標も抱いてなかった高校生・外村(山崎)がふと出会ったピアノ調律師の出した音に運命的な出会いを感じ、その後、調律師として成長していくストーリー。山崎と言えば、少年少女人気コミックやアニメの実写化作品で知られているが、ここでは特殊能力もなければ、アクションや壁ドン、怒涛のキスシーンもない。
挑戦したのは普通の男の子の実直すぎる成長物語。それでいて物語が始まった瞬間から、外村から目が離せない、さすがの存在感を見せる。原作小説の行間すらをも感じさせる豊かな表現力に、多くの観客が圧倒されるはずだ。
枠にはめられない不思議な憑依力
以前、『斉木楠雄のψ難』(17)の福田雄一監督に取材した際、「山崎賢人は福田組になりうるのか?」と尋ねたことがある。監督は「それはおこがましい」と否定し、彼のコメディセンスを評価しながらも、山崎がその枠に収まりきらない人材であることを認めた。
同作や『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(17)といった少年コミック原作のエンタメと並び、『ヒロイン失格』(15)、『オオカミ少女と黒王子』(16)などの少女漫画ならではの胸キュンラブストーリーも得意分野としてきた山崎。時空を超えたSFの主人公から、女の子が胸ときめかすクールなイケメンまで、コミック、アニメの実写化の主演といえば山崎賢人といわれるほど、どんな奇抜な設定だろうと気負うことなく、自然と存在してしまう不思議な魅力が彼の持ち味の一つであった。
ところがここにきて、小説の実写化作品でも、めきめき頭角を現し始めた。池井戸潤の経済小説を映像化したドラマ「陸王」(17)では陸上選手を支援する父のサポートという、裏方役が話題に。推理小説を実写化した『氷菓』(17)でも、平凡な、いやむしろ目立たなすぎるくらいの男の子を好演した。少女漫画のキラキラ王子にふさわしいルックスの持ち主でありながら、どこにでもいる男の子にもなれる憑依力。等身大の役柄で、じっくりと見せる演技も実に巧みであることを証明した。
希望と不安が入り混じった主人公と共に成長
その真骨頂が『羊と鋼の森』である。自分のやりたいことを見つけながら、さまざまな困難にぶつかり、もがき、焦る外村。その様子を見た調律師の先輩から「こつこつです」とアドバイスを受ける。映画はこつこつと一歩一歩、前に進む外村を粘り強く追いかける。山崎の丁寧で一つずつ積み上げるような演技に外村の姿が重なる。
数々の華々しい作品で主演を務めあげてきた山崎には意外な印象だが、将来への不安、希望、さまざまな思いが入り混じった外村役に仕事をするうえで、共感することが多かったという。成長著しい彼のまさに現在のリアルを切り取った貴重な一作。これまでのどんなヒーロー、王子キャラよりも眩く、輝いて見えた。
文/髙山亜紀