上白石萌音・萌歌姉妹が“初競演”で魅せた映画女優としての存在感
ピアノの新米調律師の成長を描いた映画『羊と鋼の森』(6月8日公開)。大きな見どころの1つは、上白石萌音と上白石萌歌という実の姉妹女優が、主人公・外村(山崎賢人)に大きな影響を与える姉妹ピアニスト、佐倉和音と佐倉由仁を演じていることだろう。
音楽の才能に恵まれた姉妹
2011年、共に「第7回東宝シンデレラオーディション」で脚光を浴びた上白石姉妹。2人とも名前に「音」と「歌」という親の願いが込められた一語が含まれていることからも明らかなように、彼女たちの生活には幼少のころから音楽が身近にあった。
ミュージカルスクールに通っていた姉・萌音は、2012年にはミュージカル「王様と私」で初舞台を経験。映画初主演作『舞妓はレディ』(14)もミュージカルだった。役名にちなんだ「小春」名義でCDリリースもしている。16年10月には『君の名は。』の主題歌カバーを含むミニアルバム「chouchou」で歌手デビュー。以後、女優業と共に音楽活動も並行して行い、自身のアルバムでは作詞を手掛けたり、ピアノの弾き語りを披露してきた。
一方、妹・萌歌も2015年にCDデビューを飾っており、その翌年には姉から引き継ぐかたちでミュージカル「赤毛のアン」で主演している。吹奏楽を題材にした映画『ハルチカ』(17)では、金管楽器のチューバに挑戦した。
正反対のピアニストを体現
幼少期にピアノを習っていたという萌音だけに、ピアノを生業としている役どころはしっくりくる。そして、それ以上に、音楽こそが生活の中心にある佐倉姉妹は、音楽と一緒に育ってきた上白石姉妹だからこそ、確かなリアリティを伴って表現された。
姉の和音(萌音)は端正なピアニストで、その根底には慎重さがある。一方、妹の由仁(萌歌)は解放的でパッションの感じられる弾き手。おのずと、ピアノに向き合う姿勢や鍵盤に接するスタイルも違ってくる。萌音と萌歌はまず、ここに留意しながら、姉妹でありながら対照的なピアニストをしっかり体現している。
裏腹な心の内を表現する“女優力”
さらに、由仁は姉の和音に敵わないというコンプレックスを抱いている設定。ピアノに対してはアグレッシブな由仁が、実はひとり静かに悩んでいるという背景を、萌歌は実に巧みに演じ、映画に深みをもたらしている。
一方、和音も一見、悠然と弾いていながら、自分とは方向性の異なる妹、由仁にジェラシーを感じているシチュエーション。ふたりとも、ピアノの奏法と、奥に秘めた感情とが一致してはいない。このギャップをエモーショナルなかたちにしているからこそ、映画女優として信頼できるのだ。ときに骨太なインスピレーションを感じさせる萌音。ふとしたはずみで、しっとりとした情感を漂わせる萌歌。そんな意外性も魅力だ。
それぞれのエピソードもさることながら、姉妹が連弾する場面は特に印象的。互いへの想いを秘めながら、けれども、自分なりの方法でピアノを弾く2人。ひとは、見た通りの生きものではない。その真実を、上白石姉妹は、スクリーンに映える所作で鮮やかに伝えている。
文/相田冬二