不倫は芸術なのか?ホン・サンスと“ミューズ”キム・ミニの軌跡をたどる4つの物語
つづけて16日から封切られた『夜の浜辺でひとり』は、ミニの存在価値が存分に高められた作品といってもいい。本作で彼女は第67回ベルリン国際映画祭の女優賞を受賞する。不倫の果てにドイツ・ハンブルクに逃げてきた元女優の主人公が恋に悩み、そして韓国に戻り恋と仕事に悩む。つまりは『それから』と同様、不倫の果てを今度は女性目線でつづった作品という位置づけだろう。巧みなストーリーテリングとミニの圧倒的なパワーがフルに発揮された本作もまた、延々と軽やかな会話劇がつづけられていく。しかし、その会話をひとつひとつ咀嚼していけばひたすら、心にずしりとのしかかる。
このあとサンスとミニの“出会い”である『正しい日間違えた日』が6月30日(土)から公開されるのだが、こちらは『気まぐれな唇』(02)などサンスの初期作を思い起こさせる小洒落た、まさにエリック・ロメール的なポップさを兼ね備えた作品だ。面白いことに日本の観客は、恋人たちの出会いを描く『正しい日間違えた日』を、『夜の浜辺でひとり』『それから』が描いたある種のカタストロフィに直面したのちに観ることになるのだから、ポップなラブストーリーではないニュアンスを抱くことになるはずだ。
そして締めくくりを飾るように7月14日(土)から公開される中編『クレアのカメラ』(製作の時系列でいえば『それから』の前にあたる)でミニはフランスの大女優イザベル・ユペールと対峙し、カンヌという国際的な映画の舞台で物語をつむいでいく。“不倫は芸術”というキャッチが似合いそうな自戒と奔放さが入り混じった人間群像は、今回の作品群におけるエキシビション的な意味合いを放ち、次なる芳醇なドラマの拡がりを期待させる。
文/久保田 和馬
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