現代アメリカの残酷な闇に迫った!『ウインド・リバー』に潜むネイティブ・アメリカンの真実
第70回カンヌ国際映画祭のある視点部門で監督賞を受賞したクライム・サスペンス『ウインド・リバー』が現在公開中だ。少女殺人事件を巡るミステリーや緊迫感漂う銃撃戦などのクオリティの高さもさることながら、アメリカの先住民“ネイティブアメリカン”を巡る悲しい歴史と過酷な現実をリアルに描いている点も高く評価されている本作。今回はその社会的背景をより深く理解するため、日本ではあまり知られていない彼らにまつわる重要な3つのポイントを紹介しよう。
土地もアイデンティティも奪われた先住民
その昔、アメリカ大陸の先住民族であるネイティブ・アメリカンは肥沃な土地で豊かな暮らしを送っていたが、大陸に渡って来た白人たちの侵略に遭い、土地が奪われてしまった。こうして、彼らは作物の育ちにくい土地に追いやられ、厳しい自然環境での生活を強いられている。白人社会とネイティブ・アメリカン社会は対立し、両者の間には現代においても根深い溝ができたままだ。
すべてを奪われ一度破壊されてしまった民族アイデンティティの修復は難しく、多くのネイティブ・アメリカンは生きる目的を失いアルコールやドラッグ、ギャンブルに依存。その結果、レイプや殺人などの犯罪に巻き込まれるケースが増加し続けるという深刻な社会問題となっている。
物語の舞台“ウインド・リバー”の異質な環境
ネイティブ・アメリカンの多くは政府が用意した保留地でいまも暮らしており、物語の舞台となる山脈“ウインド・リバー”もその一つだ。ロッキー山脈の隣に位置し、冬は深い雪に閉ざされた厳しい寒さに見舞われる。本作で遺体となって発見されたネイティブ・アメリカンの少女の死因が、吹雪の中を逃げ回り、冷気を吸ったことで肺が凍り破裂してしまったことからも、いかに厳しい環境かがおわかりいただけるだろう。
監督のテイラー・シェリダンは「地形そのものが敵のように向かってくる冷酷な地。中毒と殺人がガンよりも猛威を振るう。レイプが少女から大人の女性になるための儀式と捉えられているような場所であり、法律が自然の法則に屈してしまう。この一世紀の北米で、ほとんど変化のなかった場所は他にないだろう」とコメントしている。
日本では考えられない複雑な警察制度
公的機関である日本の警察組織とは違い、アメリカの主な警察は徹底した自治体組織。本作に登場する部族警察も先住民が自治として所有する警察であり、署長も地元先住民の投票により選出される。重大な事件でない限り州警察や市警察は動かないため、エリザベス・オルセン扮するFBI捜査官が事件を殺人事件として立証しようと駆け回る場面も描かれている。
シェリダン監督は「この作品は成功しようが失敗しようが、作らなければならない作品だった」と語り、ネイティブ・アメリカンの人々に光を当てるための力強いメッセージが込められた作品だったことを明かしている。そんな監督の想いと、ネイティブ・アメリカン問題の知識を理解することで、より深く作品を楽しむことができるだろう。
文/トライワークス