アカデミー賞前哨戦のトロント国際映画祭が閉幕!注目の観客賞はファレリー監督の『グリーン・ブック』
約10日間に渡って行われた北米最大の映画の祭典、トロント国際映画祭が閉幕し、現地時間16日午後に行われた閉会セレモニーでは、観客賞などの受賞作品の発表が行われた。
トロント映画祭の観客賞は、過去に『スラムドッグ$ミリオネア』(08)や『英国王のスピーチ』(10)、『それでも夜は明ける』(13)、『ラ・ラ・ランド』(16)、そして昨年の『スリー・ビルボード』(17)が受賞し、アカデミー賞主要部門の行方を占う上で最も重要な賞として知られている。そのため、映画会社も観客も、今年はどの作品が栄えある名誉を得るのか興味津々だ。
閉会セレモニーでは、短編映画賞やカナダ人映画作家の初監督作に贈られる賞、国際批評家賞(FIPRESCI賞)や、韓国のイ・チャンドン監督、インドのミラ・ナイール監督、ハンガリーのタル・ベーラ監督が審査員を務めた「プラットフォーム部門」の発表に続き、観客賞が発表された。
次点2位はヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞したアルフォンソ・キュアロン監督の『Roma』。映画祭での高評を受け、Netflixは『Roma』を劇場でも公開すると発表した。メキシコでは先立って劇場公開され、アカデミー賞外国語映画賞のメキシコ代表作品として選出されている。
次点1位は『ムーンライト』(16)でアカデミー賞作品賞を受賞したバリー・ジェンキンス監督の最新作『If Beale Street Could Talk』。70年代のニューヨークを舞台に、無実の罪で囚われた恋人の冤罪を証明しようと力を合わせる若いカップルのこの物語は、ジェンキンス監督が得意とする美しい映像が印象的だった。
そして、観客賞を受賞したのはピーター・ファレリー監督の『グリーン・ブック(原題)』。60年代のアメリカ、ニューヨークを舞台に、カーネギー・ホールの上階に住むインテリの黒人ピアニスト、シャーリー博士(マハーシャラ・アリ)が、クラブの用心棒として働くイタリア系のトニー(ヴィゴ・モーテンセン)を運転手として雇い、南部をめぐるコンサート・ツアーに出る物語。
プレス向け試写後に、批評家たちが口々と「今年の観客賞は決まり」と噂していた『グリーン・ブック』は、プレミア上映でも大歓声で迎えられ、下馬評も高かった。
受賞を受けてファレリー監督は、「いまだに信じられません。トロント映画祭で上映されただけでも名誉だったのに、観客賞受賞は夢のような光栄です。みんなが言う『トロントの観客は最高だよ!』という言葉の意味がわかりました」というコメントを寄せている。
ファレリー監督は、弟のボブとともに『メリーに首ったけ』(98)や『愛しのローズマリー』(01)など、スレスレのギャグを多用したロマンティック・コメディを量産してきた。コメディ演出には定評があるが、アカデミー賞や国際映画祭と縁があるわけではなかった。この観客賞受賞によって、『グリーン・ブック』はアカデミー賞で作品賞・脚色賞・監督賞候補、貫禄のあるお腹のマッチョなイタリア系男性を演じたヴィゴ・モーテンセンは昨年の『はじまりへの旅』に続く主演男優賞候補、上品で気位の高いピアニスト役を演じたマハーシャラ・アリは、『ムーンライト』に続く2度目の助演男優賞候補となる可能性が出てきた。トロント映画祭が終わると、ハリウッドはいよいよ賞レースの幕開けとなる。『グリーン・ブック』が過去のジンクスに慣い、アカデミー賞にどう絡んでくるかが見ものだ。
取材・文/平井伊都子