『悪魔のいけにえ』に人生を狂わされた(!?)2人が語る、“ホラー映画”の魅力|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『悪魔のいけにえ』に人生を狂わされた(!?)2人が語る、“ホラー映画”の魅力

コラム インタビュー

『悪魔のいけにえ』に人生を狂わされた(!?)2人が語る、“ホラー映画”の魅力

『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より
『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より[c]MCMLXXIV BY VORTEX, INC.

「ホラー映画」を“愛しちゃった”どころか、人生がホラー映画にどっぷり浸かった映画人である松竹株式会社のDVD・BD商品開発担当の大久保豊氏と、「DVD&動画配信でーた」副編集長の西川亮のホラー談義をお届け。2人がホラー映画にハマったきっかけは、ホラー映画の金字塔『悪魔のいけにえ』(74)だそう。物語は、旅行中の若者5人が立ち寄った一軒家が、実は殺人鬼一家で、若者たちが次々に殺戮されていくというもの。2人は、この映画によってホラー映画に深く導かれた結果、ホラー映画が自分の人生の伴走者になってしまうことに…。映画サイトPINTSCOPEで、並々ならぬ熱量をかけて映画に関わる"とんでもない人”を取り上げる連載の、“ハロウィン番外編”として掲載されたインタビュー(ダイジェスト版)を、Movie Walkerでも掲載します。

“殺人鬼”を、僕のそばに置いておきたい

——今日はお忙しい中、お集まりいただきまして…。

大久保「(インタビュアーの話を聞かずに)『悪魔のいけにえ』公開40周年記念版の特典映像、観ましたか?」

西川「4種類も入っているんですよね! あれ、5種類だっけ?(※実際は4種類)」

『悪魔のいけにえ』の映像特典話で盛り上がる大久保豊氏(左)と西川亮(右)
『悪魔のいけにえ』の映像特典話で盛り上がる大久保豊氏(左)と西川亮(右)撮影/田島雄一

——あの〜…勝手に話を始めないでください! …では、気を取り直して…大久保さんと西川さんは、映画『悪魔のいけにえ』を観て衝撃を受けて以来、ホラー映画をこよなく“愛しちゃったのよ”なお二人と伺いました。早速ホラー映画の話をされているので、お互い面識があるとお見かけしましたが、仕事でご一緒されることがあるんですか?

西川「はい。大久保さんから、雑誌で掲載する新作DVDの紹介をして頂くため、定期的にお会いしています。でも、そんな時も大久保さんとはホラー映画の話ばっかりしちゃうんですよ。この前も、1時間の打ち合わせ中、『20分仕事の話+40分ホラー映画の話』でした」

大久保「そーそー」

——この仕事効率化の昨今に…(笑)。

大久保「実は、今日僕のホラー映画マスクコレクションを持ってきました!かぶってみましょうか?まずは…これ!」

 『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』に登場する殺人ピエロ・ペニーワイズのマスク
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』に登場する殺人ピエロ・ペニーワイズのマスク撮影/田島雄一

——『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)ですね! スティーブン・キング原作の映画で、そこに登場する殺人ピエロ・ペニーワイズ。精巧にできているので、怖いですね…!!

西川「これは、映画版じゃなくて、アメリカで放送されたテレビ版のほうですか?」

大久保「そうです! さすがですねー。その違いがですね…」

——映画版とテレビ版の違いの説明は後にして、次のマスクをどうぞ!

大久保「そう? 次のマスクも、よくできているんですよー、ほら!」

これも大久保氏の私物、 『スクリーム』のマスク
これも大久保氏の私物、 『スクリーム』のマスク撮影/田島雄一

西川「『スクリーム』(96)ですね!」

——『エルム街の悪夢』(84)のウェス・クレイヴン監督が、ホラー映画のパターンを逆手に取った演出を仕掛けて、大ヒットしたホラー映画ですね。

大久保「これを仕事の帰りにね、自宅の玄関前でかぶって、チャイム鳴らして、カミさんを驚かせた覚えがありますねー」

——いやいや、いい思い出みたいに語らないでください! ホラー映画好きの夫を持つと、こういうハプニングがあるかもしれないのですね…。奥様、お気の毒に…。

大久保「こういうマスクをつけた怪物の原点が…」

西川「『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス」

——『悪魔のいけにえ』に登場するチェーンソーを持った殺人鬼ですね。人の顔の皮を剥いでつくった仮面をかぶっているという。

大久保「(袋をゴソゴソ)これですねー」

西川「おー! すごく精巧なレザーフェイスのフィギュア!!」

 『悪魔のいけにえ』の殺人鬼・レザーフェイスの精巧なフィギュア
『悪魔のいけにえ』の殺人鬼・レザーフェイスの精巧なフィギュア撮影/田島雄一

——この一連のホラー映画グッズが、大久保さんのコレクションの一部なんですね。あのー…このマスクやフィギュアは、家に飾ってあるんですか…?

大久保「もちろん! 私の秘密の部屋があって、そこに飾っているんですねー。」

——そうですよね…玄関には飾れないですよね…。素朴な疑問なんですが…これを見て、どうするんですか…?

大久保「どうするも何もないんですよ! これを飾って自分の側に置いておきたいというだけです」

西川「わかります!」

——はぁ…自分の側に…。

西川「やっぱり、大久保さんのマスクコレクションは、『悪魔のいけにえ』に登場するレザーフェイスが発端なんですか?」

大久保「そうですねー。『悪魔のいけにえ』を初めて観たのが、小学校高学年の頃だったんですよ。テレビで観ましたね。『木曜洋画劇場』(テレビ東京系列/68〜09)だったかな。もう、あのレザーフェイスが衝撃で。あの背上がった感じと、ムッとした雰囲気と、そしてあの人の皮を剥いでつくった仮面をかぶった顔。殺人鬼のマスクの下に隠されている顔は、一体どういう顔なんだろうって、それから興味をそそられるようになりました」

西川「その後に映画『13日の金曜日』(80)に登場する、ホッケーマスクをかぶった殺人鬼・ジェイソンなど、仮面をかぶった殺人鬼が登場するホラー映画が続くようになりますからね。よく、ジェイソンがチェーンソーをもっているイメージを抱かれていますが、ジェイソンが持っているのは“ナタ”なんですよね。ジェイソンの方がキャッチーだから市民権を得ているけれど、そのエピソードからもわかるように根底にあるのはレザーフェイスです」

大久保「ジェイソンというと、僕は今在籍している部署の前は、映画関連のグッズ商品の企画制作を担当していました。いわゆる映画館で販売する商品ですね。その時に『フレディVSジェイソン』(03)の商品を担当する機会があったんですよ。僕が好きなホラー映画だったので、もう色々と考えましたね。それで、つくったのがこれ!」

大久保さんが、公開当時に企画制作を担当した『フレディVSジェイソン』グッズ
大久保さんが、公開当時に企画制作を担当した『フレディVSジェイソン』グッズ撮影/田島雄一

ホラー映画は怖いだけじゃない!“いま一番新しい表現”を目撃できる場所なんだ

——先ほど、大久保さんが『悪魔のいけにえ』を初めて観たのは、小学校高学年の頃とおっしゃっていましたが、西川さんが初めて観たのはいつ頃でしたか?

西川「高校生の時だったかな。ゾンビ三部作といわれている映画【『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(68)、『ゾンビ』(78)、『死霊のえじき』(85)】とかを、友達とキャーキャー言いながら観ていた時期だったんですよね。そこから、『ハロウィン』(78)とか『死霊のはらわた』(81)とか、70〜80年代に活躍した監督のホラー映画をどんどん辿っていったところ、『悪魔のいけにえ』に行き着いたわけです」

——ホラー映画の名作を辿っていった中で、『悪魔のいけにえ』と出会ったんですね。西川さんにとって、どんな衝撃だったんですか?

西川「とにかく圧倒されました。他のホラー映画と比べても、『悪魔のいけにえ』はいたってシンプルな物語でできている。それなのに、今まで観た中で最も狂気じみていたんです。低予算でつくられた作品なので、役者も無名な人を使っている。それなのに、他とは一線を画していると感じました」

——どういうところが、一線を画していると感じたのでしょうか。

西川「ホラー映画なのに、すごく美しいんですよね。ラストシーンで、レザーフェイスが朝焼けのなか、チェーンソーを振り回すところがあるのですが、このシーンが美しくて。僕の好きなシーンのひとつです。この映画の芸術性が評価されて、マスターフィルムがニューヨーク近代美術館に永久保存されたというのも納得です」

『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より
『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より[c]MCMLXXIV BY VORTEX, INC.

——ホラー映画なのに、美術館にフィルムが保存されているんですね。

西川「あとは、低予算で製作されているので、通常映画で使われる35mmフィルムではなく、サイズが一回り小さくて安価な16mmフィルムで撮られているんです。だから、画像が荒くてザラザラしている。それもまたかえって良くて」

大久保「ドキュメンタリーっぽい感じの雰囲気があるんですよね。あと、BGMが使われていないから余計にそう感じる。それがまた、鑑賞者を“見てはいけないものを見ている”という気持ちにさせる。それがすごく好奇心を掻き立てるんです。僕が観たのは子どもの頃で、当時、心霊とかTVの『あなたの知らない世界』とか、そういうものに興味があり、その流れの中で『悪魔のいけにえ』を観ました。だから、インパクトが凄まじかった。と同時に、『もっと深く観たい』『ホラー映画を深く知りたい』と思ったんです」

——なるほど。『悪魔のいけにえ』を観たことで、深くホラー映画を観ていきたいという興味が湧いたんですね。

大久保「そうです! だから、それからは、ずっとホラー映画を観続けていますね。もう、相当な数を観ていると思います」

西川「僕は映画を扱った雑誌の編集をしているので、新作映画が公開される前に、宣伝媒体向けに行われるマスコミ試写を主に観に行きます。そこでも、ホラー映画優先でスケジュールを組みますからね。まずは、ホラー映画を観る日程を決めて、その後にアクション映画などの予定を入れていきます。『○月○日は○時からは、このホラー映画か〜!』みたいな」

——ホラー映画鑑賞の予定を見て、ワクワクが止まらないんですね(笑)。

西川「“新しいものが観れるんじゃないか”って、ワクワクするんですよね。『悪魔のいけにえ』でトビー・フーパー監督が映画界に出てきたように、無名の監督がホラー映画で新しい物語や演出を試して、『世に出てやろう!』『この作品を世に問うてやろう!』と意気込んでいる。その気迫を映画から感じることができるんです。予算がなくても、情熱と愛と気合いで、すごい映画が生まれるんだというのを、高校生からホラー映画を見続けてきた僕は、いくつもいくつも目の当たりにしてきた。ホラー映画に期待するのは、そこなんです」

——ホラー映画は、新しい才能が出てきやすい場所ということですか。

西川「マーベル・コミックの作品を原作としたマーベル・スタジオが製作した映画の監督も、ホラー映画から世に出てきた監督が多いですしね。そういう意味でも、60年代後半から70年代に出てきたホラー映画、その中でも『悪魔のいけにえ』は、その後につながるホラー映画の雛形をつくった作品。算数における足し算、引き算のようなもの」

『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より
『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より[c]MCMLXXIV BY VORTEX, INC.

大久保「そうです。『悪魔のいけにえ』のような衝撃を求めて、いまもホラー映画を観続けています。そして、ホラー映画のつくり手も、より新しい表現を模索し続けている。最近だと、例えば『イット・フォローズ』(14)『ゲット・アウト』(17)とかが新しいホラー映画として話題になりました。もう少し前だと、フランスで多くの才能ある監督が出てきて。それがフレンチホラーというジャンルを築きました。その代表的な監督が…」

西川「アレクサンドル・アジャ」

大久保「この監督が撮った『ハイテンション』(03)という素晴らしく面白い。巧妙なシナリオですね。最近では、『ルイの9番目の人生』(16)という映画を撮っています。なぜ、フレンチホラーというジャンルができたかというと、フランスは残虐な表現に対する規制が、他の国に比べて厳しくなかった。それも芸術表現のひとつだという認識があるから」

——ホラー映画は規制の中で、何ができるかというチャレンジ要素のある表現でもあると。

大久保「フランスは、チャレンジングなことができやすい環境だったと思うんです。最初に話が出た『悪魔のいけにえ』の前日譚の物語である映画『レザーフェイス–悪魔のいけにえ』の監督、ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロも、フレンチホラーのつくり手です。彼らが世に出て来るきっかけとなった『屋敷女』(07)というサスペンス映画が、これまた素晴らしい」

西川「まだ観てないんですよー」

大久保「DVDお貸ししますよ!」

こんな非日常を体験できるのは、ホラー映画しかない!

大久保「僕は、最近、昔観た映画を観直しているんですよ。小学生の頃に観て面白かった映画を、人生経験を重ねた今の僕が観たら、いったいどう感じるんだろうと興味が湧いて。試してみると、やっぱり『なんだこりゃ!全然面白くない』『子どもだから楽しめたんだな』という作品が結構多い。でも、その中で『悪魔のいけにえ』は、最初に観た時の衝撃そのままに光り輝いているんです」

——経験を重ねて、時を超えても、尚衝撃的な作品なんですね。

西川「映画も日々進化して、複雑化している。観ている自分もいろんな映画を観続けてきているから、より複雑な作品を求めているところがある。そんな中でこの映画を観ると、シンプルな構造ゆえ、原点に立ち返るような気持ちになるんです」

大久保「そうですね。初めて観た小学生の時からずっと、ホラー映画は僕の好奇心を最大限に掻き立ててくれるものなんですよ」

 『悪魔のいけにえ』より
『悪魔のいけにえ』より[c]MCMLXXIV BY VORTEX, INC.

西川「映画って、ホラー映画もそうですが、自分が人生を歩んでいたら絶対経験できないような“非日常”が全部詰まっている。映画を意識的に好きになった小学生の頃から、今までずっと好きでいられるのは、映画そのものにその力がまだある、そしてその魅力が自分の中でも途絶えていないからだと思います。だから、こういう形で仕事にできるのは、すごく幸せなことだって感じますね」

大久保「僕も就職活動するとき、勤め先として映画以外考えられなかったですね。それで今、このように映画に仕事で関われているのは、本当に幸せだと思います」

『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より
『悪魔のいけにえ 公開40周年記念版』より[c]MCMLXXIV BY VORTEX, INC.

取材・文/PINTSCOPE編集部

西川亮
1979年生まれ、兵庫県出身。映像編集スタジオの営業、レンタル・ビデオ店向けフリーペーパーの編集を経て、現在はDVD&動画配信でーた編集部に所属。小学生の時に親友の勧めで観たアーノルド・シュワルツェネッガー主演『プレデター』(1987年)が映画原体験。最も好きな映画監督はブライアン・デ・パルマ。

大久保豊
事業部門・映像部門を往復。昨年、メディア事業部ホームエンターテインメント室に異動し、DVD/BDの開発を担当。特に、事業部門では、15年以上在籍し、「ハリー・ポッター」シリーズにおいて、劇場販売用商品の企画他を、全作を通じて、手掛ける。ハリーたちのローブ・マフラー等コスチューム系のレプリカ商品が大ヒットしたことは、自身の誇れる仕事とのこと。

▽映画サイトPINTSCOPEでの記事はこちら
ホラー映画のない人生なんてムリ! 好奇心を刺激する唯一無二の存在

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