町山智浩が貴族コスチュームで登場!『女王陛下のお気に入り』の裏側からアカデミー賞予想まで徹底解説
第91回アカデミー賞で作品賞や監督賞を含む9部門で10ノミネートされている『女王陛下のお気に入り』(2月15日公開)の試写会が29日に都内で開催され、映画評論家の町山智浩がトークショーに登壇。作品を観終わったばかりの観客から寄せられた質問に答えながら、本作の撮影秘話や歴史背景の解説、そしてアカデミー賞の見解を語った。
本作はフランスと交戦中のイングランドを舞台にした女たちの熾烈なバトルが描きだされる宮廷絵巻。病弱でワガママな女王アンと、彼女の幼なじみで圧倒的な権力を振るうレディ・サラのもとに、レディ・サラの従妹で上流階級から没落したアビゲイルがやってくる。召使いとして働くことになったアビゲイルはサラに気に入られ、瞬く間に侍女へと昇格。そして少しずつアンに取り入るようになっていく。
先日行われた『サスペリア』(公開中)のトークイベントでは黒いローブをまとって登場した町山は、この日は劇中でニコラス・ホルトが演じたハーリーさながらの貴族コスチュームで、顔を白塗りにして登場。観客から「チークが完璧」と褒められた町山は満面の笑みを浮かべながら「一番気になったことは、男がみんなお化粧をしていて、女性たちはスッピンだったことです」と語りはじめ、次から次へと本作の見どころとなるポイントを熱弁していく。
「ヨルゴス・ランティモス監督が『すべてのシーンを変に撮れ!』と指示を出して、徹底的に変なショットばっかり。でも美しかった」と、魚眼レンズと床面ギリギリから被写体をねらう特殊な撮影技法について解説。「下から見上げるシーンはハリウッド映画ではほとんどなく、オーソン・ウェルズだけです。それはなぜか?下から撮ると上にあるいろいろな物が映り込んでしまうから。だからこの映画は照明を一切使わずに自然光を使っています。窓からの光や、夜のシーンではろうそくの灯りで撮っているんです」。
そして本作の基となるシナリオは、サラがアンとの関係を暴露した記録が90年代に発見されたことがきっかけで書かれていたと語った上で、20年に渡り映画化が待たれていた企画をランティモス監督が引き受けたことを明かす。「彼らしいなと思います。嫌な人たちの嫌な話。こういうのをあえてやるのがランティモス監督ですから」と、動物を使った比喩や閉鎖された環境下で繰り広げられるドロドロした人間関係など、ランティモス監督の過去の作品を例に出しながらその“独特の世界”を紐解いていった。
ほかにも撮影現場で3人の女優たちが劇中さながらにお互いを驚かせるような策を講じていたことや、エマ・ストーンの体当たり演技、時代考証を完全に無視した衣装デザインのすごさ。劇中の描写と史実の違いであったり、映画で描かれなかった“その後”の物語。また本作のストーリーの原型となったと思われるジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の『イヴの総て』(50)とジョセフ・ロージー監督の『召使』(63)を紹介。前者については「ハッキリ言ってそっくりです!」ときっぱり語り、後者についても密室で繰り広げられる主従関係の逆転劇という点を説明した上で「強く影響を与えていると思います」と語った。
最後にアカデミー賞について「レイチェル・ワイズとエマ・ストーンが助演女優賞でぶつかっているので、票が割れる可能性がある。そして撮影賞は『ROMA/ローマ』と争うことになると思います」と自身の見解を語った町山。「作品賞については、イギリス的な映画で皮肉たっぷりに苦笑いさせるという、ハリウッドのヒューマニズムとは真逆の映画。なのでアメリカでは難しいかな」と首をかしげ「わかりやすい感動と友情と愛情は『グリーンブック』なので、シニカルな本作がハリウッドの関係者からの票を集められるかどうかですが、作品賞は難しいところでしょう。多分『デッドプール2』が獲るんじゃないかと思います(笑)」とユーモアたっぷりにまとめた。
取材・文/久保田 和馬