ジェームズ・キャメロン、構想20数年を掛けた超大作『アリータ:バトル・エンジェル』への想いを語る
全世界歴代興行収入1位の映画『アバター』(09)と2位の『タイタニック』(97)を手掛けた巨匠ジェームズ・キャメロンが、構想20数年をかけ、木城ゆきとの人気コミック「銃夢」を実写映画化した『アリータ:バトル・エンジェル』(2月22日公開)。脚本は自ら執筆したが、メガホンは『シン・シティ』(05)のロバート・ロドリゲス監督に委ね、自身はプロデューサーを務めた。1月31日に日本独占生中継会見が行われ、キャメロンが本作に懸けた想いについて語った。
天空に浮かぶユートピア都市“ザレム”と、廃棄物が堆積した下層の街“アイアンシティ”。“アイアンシティ”で暮らすサイバー医師のイド(クリストフ・ヴァルツ)は、瓦礫の中から頭部だけ残されたサイボーグの少女を発見する。イドは彼女に機械の体を与え、「アリータ」と名付ける。
完成までに20数年間も費やした理由とは?
いまから25年前、キャメロンに原作を紹介したのは、日本のサブカルチャーを激愛する『パシフィック・リム』(13)のギレルモ・デル・トロで、作品の世界観に魅了されたキャメロンは、すぐに映画化権を獲得。特に魅了されたのはアリータのキャラクターだったとか。
「彼女の非常にオープンなハート、もろさとともにある内面的な強さ、弱きものを助けるという正義感などに惹かれたよ。ほかのキャラクターはもちろん、壮大なSFの世界、テクノロジーの描き方も含めてすばらしかった。最初にコミックを読んだ時、娘がまだ幼かったので、この映画で世の中の若い女性に力を与えたいと思ったよ」。
20数年も制作に時間がかかった理由についてキャメロンは「本作と『アバター』というビッグプロジェクトを同時進行で進めていたから」と説明。「両プロジェクトとも非常に思い入れが強く、どちらを先に進めるか思い悩んでいたけど、『アバター』でいろいろと技術的なテストをしたのでそちらを先に進めることになり、『アリータ』が後回しになってしまった」。
そして『アバター』が世界的にメガヒットしたことで続編の制作が決定し、『アリータ』の映画化がさらに先延ばしになってしまったそうだ。
「そしたらロドリゲス監督から『アリータ』の制作状況について聞かれたので、僕から『監督をやってみるかい?』と声をかけ、まだ未完成の長い脚本を渡したんだ。そしたら彼が『すべてのシーンが目に浮かぶ』と言ってくれたのでその情熱にほだされ、ロバートにお願いすることにしたんだ。本当は自分で監督をしたかったけど、そうなるとあと20年は待つことになってしまいそうで」。
ロバート・ロドリゲス監督との信頼関係
メガホンを託されたロドリゲス監督は、ジェームズ・キャメロンの撮影スタイルを意識して撮影したと言っているが、キャメロンは「僕はそうは思っていない。完成版はロバートのスタイルで撮られたものになっていたし、僕もそうなるべきだったと思っている」と持論を述べる。「そういう意味では、完璧なコラボレーションができたんじゃないかな。もともとは木城先生の作品だが、映画とコミックでは媒体が全く違うし、ロバートが命を吹き込んでできあがったものは、僕の映画とはまた違うものになったと思う。映画はグループで作るものだし、そういう意味で本作は、3人のアーティストによるコラボレーション作品だとも思っている。本作はロバートが撮ったことで、より商業的な作品に仕上がったけど、それは悪いことではない。もしも僕が作ったら、よりダークでエッジのきいたものになったと思うが、本作はより若い人たち、もっと広い人たちに届くようなものに仕上がったのではないかと。ロバートにも娘がいるから、彼女たちに向けて作ったのではないかと思う」。
キャメロンはプロデューサーとして、どのくらい作品に関わったのだろうか。「脚本は彼と僕で練ったし、プロダクション・デザインやキャラクターのデザイン、キャスティングにも僕が関わったよ。でも、撮影現場に行ったのは1回きりで、たった1時間いただけだ。なぜなら『これはロバートの映画だ。僕は彼にバトンを渡し、すべてのクリエイティブの権限を彼に任せている』ということを、キャストやスタッフにちゃんと示しておきたかったから。プロデューサーはそういうやり方をすべきだし、自分が信頼している監督だったらなおさらそうだと僕は思っている」。
アリータの目を大きくした理由とは
ヒロイン・アリータ役をパフォーマンス・キャプチャーで演じたのは「メイズ・ランナー」シリーズのローラ・サラザール。大きな目が特徴的なアリータだが、これは原作コミックのキャラクターへのリスペクトを込めて、CGエフェクトで表現された。
「目は僕もロバートも気に入っているが、僕がまだ監督する予定だったころからすでに大きくしてあったよ。木城先生のコミックでは大きな目、ハート形の顔、小さな口が魅力的だ。僕は本当にリアルなCGの女の子を作りたいと思っていて、大きな目はちょっとリアルじゃないけど、体が人工的なロボットだからちょうど良かった」。
目の大きさについては試行錯誤もしたようだ。「当初の制作時よりも、あまりにもCGの技術が進んでしまったから、いまだと皮肉にも(『アバター』でも使ったVFX制作会社の)WETAデジタルでは、アリータを普通に描くと、現実に生きている人間のように思えてしまう。でも、目を大きくすれば、木城先生の画に近くなるので、私もロバートも気に入ったんだ。ただ1年前に作ったフッテージ映像を見せた時、ちょっと大きすぎるんじゃないかという批判が出たのは確かだ。それはまだ完成版ではなかったから、より人間的で温かい雰囲気をもつキャラクターにしていったよ。いまではリアルに見えすぎて、周りの人間の目が小さすぎると感じるかもしれない」。
『タイタニック』へのオマージュは?
本作は『タイタニック』にオマージュを捧げたのではないかと思われる点がいくつかうかがえるが、その類似点についてキャメロンは「僕はラブストーリーが大好きだから」と前置きをしたうえで「『タイタニック』は若い2人が、階級の違いや船の事故によって引き裂かれる悲恋を描いている。本作でも同じように、1人はサイボーグ、もう1人はサイボーグに敵対するような行為をしている人間・ヒューゴが登場する。昔からこういう運命に翻弄される“ロミオとジュリエット”スタイルの悲恋は数多く描かれてきた」と解説。
「今回はそれだけではなく、アリータとイドの関係も父と娘のラブストーリーだと思っている。僕はロマンチストなので、どうしてもアリータが彼に自分のハートを渡そうとするシーンを入れたかった。これは木城先生のコミックのなかでも描かれているシーンだ。これはさすがに(『タイタニック』の)ローズにはできなかったことだね(笑)」。
本作の原作が日本のコミックという点がなんとも興味深いが、キャメロンは「昔から日本のコンテンツが大好きで、マンガやアニメをずっと観てきた。特に押井守さんや大友克洋さんの作品が大好きだった。僕の子どもたちも日本のカルチャーが大好きだ。真ん中の娘はアニメーターになろうとしているし、12歳の子はずっとマンガを描いている。つまりキャメロン家は日本の文化がファミリー・カルチャーになっているよ」とうれしいコメントで締めくくってくれた。
取材・文/山崎 伸子