第69回ベルリン国際映画祭が開幕!「10年前は考えられなかった」審査員の半数以上が女性に
69回目にあたる今年のベルリン国際映画祭が、2月7日開幕した。今年のコンペの審査員長はフランスが誇る大女優ジュリエット・ビノシュ。他5名の審査員は、『ありがとう、トニ・エルドマン』(16)で主役を演じたドイツ女優のザンドラ・ヒュラー、英国人プロデューサーで女優、またスティングの妻であるトゥルーディー・スタイラー、トランスジェンダー女優を起用した名作『ナチュラルウーマン』(17)で脚光を浴びたチリ人監督セバスティアン・レリオ、ニューヨークのMoMAの映画キュレイターのラジェンドラ・ロイ、ロサンゼルス・タイムスの映画評論家ジャスティン・チャンの面々だ。
記者会見において、女性が長を務め、女性が半数以上を占める今年の審査員の顔ぶれが象徴するように、まだまだ男女平等には達しているとは言えないが、状況は良い方向に変わっているのではないかという質問に対し、ジュリエット・ビノシュが「ベルリン国際映画祭のディレクターのディーターが言ったの。『今年のコンペには7本の女性監督作品が入って嬉しい。女性監督の作品だから選ばれたのではない。素晴らしい作品だから選ばれたんだ』と。これがその証であると思う。10年前こんなことは考えられなかったから。人の心がよりオープンになったのだと思う」と答えると、会場から温かい拍手が沸いた。また、ラジェンドラ・ロイはMoMAでは新人女性監督を援助し、特別プログラムを実施している状況を紹介した。そして「ベルリン国際映画祭なしに20世紀、21世紀の前衛映画の流れや名作は生まれなかった。ベルリン国際映画祭の影響は必須だった」と熱くベルリン国際映画祭の重要性を説いた。
今年のベルリン国際映画祭のテーマ「personal is political」(個人的な視点は政治的視点)についてどう思うか、という質問に対してジュリエット・ビノシュは「人間的であるということが、パーソナルということであると思う。現在多くの豊かな国々が、自国のエゴから国を閉鎖している。地球温暖化などをはじめ、世界中は様々な問題を抱えていて、それについて世界の人々がどういう話し合いを行うべきかという点に非常に関心がある。未来の世代のために我々は行動を起こすべきだと思うが、政府の対処は十分でないと思う」と発言した。
初日の夜は、オープニング作品であるデンマークのロネ・シェルフィグ監督の新作『The Kindness of Strangers』が上映され、キャストのゾエ・カザン、アンドレア・ライズブロー、ビル・ナイ、タハール・ラヒムなどがレッド・カーペットを歩いた。
本作は、暴力的な夫から逃れるため、2人の息子とニューヨークに来たクララ(ゾエ・カザン)が主人公。頼る者もなく、携帯電話やクレジット・カードの使用も止められた彼女は、一文無しとなり、子供たちをつれ図書館やホームレス・シェルターや教会を転々とすることになる。絶望的に思えた3人の未来は、看護婦のアリス(アンドレア・ライズブロー)やレストランのマネージャーのマーク(タハール・ラヒム)などと出会うことで次第に変化していく。大都会で出会った見知らぬ人達の助けをかりて、母子が新しい人生の糸口をみつけるまでを描いた本作は、様々な社会問題を扱いつつも、観る者に希望を与える視点がほんわか心温まる、いかにもシェルフィグ監督らしい作品だ。
本年度のベルリン国際映画祭のコンペにはドイツ、中国、スペイン、イスラエル、トルコ、モンゴルからの作品17本が金熊賞にノミネートされた。日本からはパノラマ部門にHIKARI監督の『37 Seconds』(2020年公開)、フォーラム部門に三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』(18)、ジェネレーション部門に長久允監督の『ウィーアーリトルゾンビーズ』(6月公開)が公式上映となった。
取材・文/高野裕子