『愛する人』のロドリゴ・ガルシア監督「男性にも興味を持って見てほしい」

インタビュー

『愛する人』のロドリゴ・ガルシア監督「男性にも興味を持って見てほしい」

1月15日(土)より公開となる『愛する人』は、37年間お互いの顔も名前も知らずに生きてきた母と娘が、悲しみを乗り越えて見出す希望と感動の物語だ。女性の視点で進む物語を、男性であるロドリゴ・ガルシア監督が繊細に描き出す。今回、そのロドリゴ監督に本作に関するキャスティングや脚本、本作に対する思いをインタビューした。

――この構想を映画化しようと考え始めたきっかけは何でしょうか?

「僕が一番興味を抱いたのは、何らかの事情により愛するものと離れて暮らすという“離別”というテーマについて。どこにいるのか? 彼女はどんな子か? 私のことを思っているのか? 彼女の顔をもう一度でも見ることがあるのか? など。そこでそういった若い女の子とその赤ちゃんの別れ、そしてそれがふたりに与える影響について色々と調べてみようと思ったんだ。母性とか養子縁組というテーマは第二的要素なんだ。“誰かを切望するということ”こそが僕が興味を持ったテーマだったんだ」

――構想から脚本ができるまで、どの程度の時間がかかりましたか?

「ほぼ10年間。もちろん他のプロジェクトなどをしながらというわけだけど。話の組み立てが一番難しく、一番時間がかかった部分だけど、決してこの映画プロジェクトに飽きるなどということはなかったよ」

――脚本を書くうえで大切にしていることは何でしょうか?

「全てだよ。もちろん内容としての面白さ、そしてどこか不安な要素があること。そして感情的な力強さ、心理的に響くものにしたかった。いつも苦戦しながらも何とか達成しようと心がけていることとしては、映画としての簡易な感覚ではなく、それぞれのキャラクターの本物の感情を描くということ。そのうえで観客にはいつも驚きを持ってもらえることを望んでいるんだ。これはいつも苦戦をしながらやっているし、本当に難しいことで。映画作りの過程において、僕にとって脚本書きが一番難しいんだ」

――女性の人生を描かれた作品が多いですが、女性を描くことのこだわりはありますか?

「実際の女性が何を考えているのかということはわからないけれど、自分の描く登場人物がどういう人物かということへの強い感覚みたいなものがあるんだ。また、映画に描かれている家族の絆に対する思い、家族の責任などといった考えや心配事など、それらはしばしば、より女性的に特有な要素と言えるかもしれない。でも多くは僕が描く女性キャラクターは僕自身にも重なることもあるんだ」

――このように女性に焦点を当てた作品の中で、男性の描き方として何か工夫されたことはあるのでしょうか?

「僕はエリザベスとカレンという、とても複雑かつ傷ついた女性に、深い理解のある男たちに巡り合ってほしかったんだ。それは彼女たちにとっても挑戦なんだ」

――監督はキャスティングに関与されましたか?

「もともとナオミ・ワッツを考えていたから、プロデューサーのアレハンドロにナオミへの連絡を頼んだんだ。こういった物語映画にとって、脚本の次にキャスティングが重要な要素になると思っているんだ」

――撮影時にナオミが実際に妊娠されていたと聞きましたが、それが作品にとって影響があったと思われますか?

「ナオミの実際の妊婦姿はとても力強いと思う。実際に赤ちゃんがお腹を蹴っているお腹ということで、シーンにも重みが加わっていると思うよ」

――3人(アネット、ナオミ、ケリー)と撮影された時のエピソードや、監督が受けた印象を教えてください

「3人ともとても仕事がしやすい人たちだよ。作品に対する責任感があり、覚悟ができているというか。おかげでそういう人たちとの作品作りは撮影もはかどるし、自分への自信にもつながるんだ」

――キャストを描くうえでモデルになった人物などはいるのですか?

「特定の人と特定の状況がベースにあるわけではない。ただ、物語は“closed adoption”(養子に出した子に会うことはできない養子縁組体型)という状況をとても反映していると思う。それは恥じらいや秘密に満ちた妊娠による養子縁組。参加者は他人の誰の身元も分かる権利がないんだ。とても痛々しく多くの人々の人生を台無しにするんだ」

――監督がこの作品を通して伝えたかったメッセージを教えてください

「カレンにはどうにか自分の過去について、そして自分自身について受け入れることを成し遂げてほしかったんだ。そうすることで彼女の周りの世界と戦争するような日々ではなく、彼女の新たな人生を始められるように。そして、全てではないけれど、少なくとも彼女は他人への愛を見つけることができたんだ」

――監督の次作について教えてください

「19世紀のアイルランド・ダブリンを舞台に、生きていくために自らを男として偽り、仕事を見つけ生きていくある女性の物語。アイデンティティ、性、そしてサバイバルなどをテーマに描いた作品だよ。グレン・クローズが共同脚本、そして主人公を演じている。オーランド・ブルームやアマンダ・サイフリッドも出演しているんだ」

本作の主人公は女性であり、客層も女性であることは間違いないだろう。しかし、ロドリゴ・ガルシア監督は男性にも興味を持って、見てほしいと語る。女性を支えるのは男性の役目であり、もし自分がこのような立場に置かれたら、と深く考えながら鑑賞してもらいたい一作だ。【Movie Walker】

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