『ダンスウィズミー』の三吉彩花、極限のプレッシャーを乗り越えてつかんだものとは?
『スウィングガールズ』(04)の矢口史靖監督によるコメディミュージカル『ダンスウィズミー』(8月16日公開)で、日本中からのオーディションでヒロインに選ばれた、女優でモデルの三吉彩花。ダンスシーンでは、スレンダーな彼女の長い肢体が、大いに映える。本作は歌って踊れる女優、三吉のポテンシャルを最大限に引き出し、コメディエンヌとしての才能も開花させた。「これまで演じたなかで一番苦労した役」と言う三吉に、本作に懸けた想いや女優としての展望について聞いた。
三吉が演じるのは、一流商社に務めるOL、鈴木静香。ところがある日、怪しい催眠術師(宝田明)から、“音楽が流れると、歌い踊らずにいられない”という催眠をかけられ、携帯の着信音やテレビの音など、あらゆる音が耳に入った瞬間、ところ構わずミュージカルスターばりに歌って踊りだす体質になってしまう。
「プレッシャーで極限状態まで追い込まれました」
クランクインの2か月前から、歌や踊りを猛特訓したという三吉は、「極限状態まで追い込まれました」と告白する。「主演のプレッシャーと、初めてのコメディミュージカルということで、いろいろな方がすごく期待をしてくださっている作品だったので、いい作品にしなければいけないと思いつめてしまって。また、本作で披露するダンスもヒップホップからポールダンスまで多岐にわたっていたので、自分のスキルがまだまだ足りないと痛感していました」。
その結果、三吉はクランクイン前に体調を崩してしまった。「その時は歌ったり踊ったりできないので、どういうふうに気持ちを保っていけば良いのかといろいろ考えました」。
そんななか、静香と共に旅をする斉藤千絵役のやしろ優や、ストリートミュージシャンの山本洋子役で演技に初挑戦したアーティストのchayと現場で意気投合し、次第に撮影を楽しめるようになっていったそうだ。「皆さんとの共演シーンが増えていくと、自分は1人じゃないという安心感が出てきて、気持ちが切り替えられるようになっていきました」。
三吉はやしろたちとすっかり仲良くなり、撮影がない日も会ったりしていたそうだ。「3人とも職業や雰囲気は全然違いますが、実は、すごく性格が似ているんです。いい意味で、人に対してまったく干渉をしないタイプで、いつも他愛ない話をしていました。すごく波長の合う3人だったので、良かったです」。
自身が演じた静香と三吉は共通点があまりなかったが、だからこそ演じやすかったそう。「自分に重ね合わせられる役だと演じづらい、というわけではないのですが、自分だったらどうするか?と考えすぎてしまうんです。モデルのお仕事の場合、“三吉彩花”として服をどう魅せるかと考えますが、女優業では、“自分”の存在はいらないと思っていて。だから、自分と近しい役の時、三吉彩花として考えているのか、それともその役がそう思っているのかがわからなくなってしまうことがあります。実際、そういう経験が過去にあって悩みました。でも、今回は矢口監督が思い描く静香に近づけることだけを考えてお芝居をしていきました」。
「大勢でやるダンスシーンはかなり大変な撮影でした」
ダンスシーンは実にバリエーション豊かだ。ロマンティックにステップを踏むシーンから、大勢でのヒップホップダンス、魅惑のポールダンス、アクロバティックなアクションと、三吉は曲に合わせていろいろなパフォーマンスを繰り広げる。
「レストランや会議室など、物がたくさんある中、大勢で撮影するシーンも多かったので、かなり大変な撮影でした。例えば、静香が務める会社の会議室でのシーンでは、社員の人たちも巻き込んで一緒に踊りだしますが、最終的に机の上にシュレッダーの中の紙をぶちまけるシーンがあって。一度OKが出ても、また別のアングルで撮らなければいけないので、全員がばらまかられた紙をかき集め、毎回掃除をしてから再度、最初から撮り直さなければいけなかったんです(笑)。また、マンションの中でモップを使って踊るシーンも、テーブルやソファの高さや長さによって、当日少しずつ振り付けが変わったりしたので、皆さんと臨機応変にやっていきました」。
高級レストランでのシーンも強烈なインパクトを放つ。山本リンダのヒット曲「狙いうち」に合わせてのダンスだが、三吉が艶っぽい目つきで身体をしならせ、ギャラリーを挑発していく。その後、テーブルクロス引きを3連発で行うが、なんと三吉は1テイクで成功させたようだ。「レストランでのシーンは4日間くらいかけて、ブロックごとに撮っていきました。クロス引きは先生に教えていただきましたが、やってみると『ああ、こういうふうにすれば誰もができるんだ』と納得し、意外とできました。躊躇なく斜め下に引けば、大丈夫です(笑)」。
また、ワインを飲みながら歌い、踊っていくシーンは、撮影後のアフレコが難しかったという。「歌いながら飲んでいるというシチュエーションなので、飲むタイミングなども考えなきゃいけなかったんです」。
なかでも目を見張るのは、後半でシャンデリアにぶら下がり、レストランを左右にぶんぶんと飛び回る、空中ブランコさながらのシーンだ。「あれはワイヤーで吊るされましたが、自分の力だとどれくらいの高さで振れるかと、研修を受けてから臨みました。実は私、高いところが苦手なんです。ジェットコースターの高さくらいまでいっちゃうと大丈夫なですが、公園のブランコなどちょっと浮いている感じもダメなほうなので、ちょっと苦労しました」。
今回、初めて仕事をした矢口監督については「こんなに役者に寄り添って演出してくださる監督には出会ったことがないです。本当に優しい方ですし、演出はとてもわかりやすかったです」と心から感謝する。「役者さんやスタッフさんに対して、すごく言葉を選んでくださる監督で、誰も傷つけないように言ってくださいます。また、ご自身が撮りたい画を忠実に教えてくれますし、表情やリアクションなどを、監督自身が1回やって見せてくださることもあります。とにかく演出が非常にわかりやすいんです」。
矢口監督自身の印象については「最初は、一体監督は、なにを考えているのだろう?と全然わからなかったんですが、撮影が終わったあと、印象がまったく変わりました」と言う。「本当にピュアで少年のような方。ごはんや服なども好みがはっきりしてらっしゃって、好きなパターンがあるようです。大御所の監督ですが、ちょっとかわいいなと思ってしまう少年っぽさがあります」。