小中兄弟を直撃!「平成ウルトラマン」誕生秘話から最新作『VAMP』まで、共作の歴史を振り返る
90年代に社会現象を巻き起こしたJホラー作品に多大な影響を与えた「小中理論」で知られる脚本家の小中千昭と、「平成ウルトラマン」シリーズや『なぞの転校生』(98)などジュブナイルSFの名手として知られる小中和哉監督。“小中兄弟”として多くの映画人や映画ファンから絶大な支持を集める2人が久しぶりにタッグを組んだ『VAMP』が現在開催中の「第6回夏のホラー秘宝まつり2019」で上映。このたび2人にインタビューを行い、最新作の裏話や2人の共同作業の歴史などを聞いた。
父親から虐待を受け続ける女子高生の美以那。生きる希望を失い自暴自棄に陥った彼女の前に現われた美女、苓は自らを“ヘマトフィリア(血液耽溺者)”と呼び、“生きるに値しない”男たちを殺し、傷ついた美以那を導いていく。そんな奇妙な絆を育んでいく2人の前に美しきヴァンパイアの影が忍び寄り…。
「久々に兄貴とホラー企画をやることは最初から決まっていました」(和哉)
――お2人で作品を作られるのはいつ以来のことですか?
小中千昭(以下:千昭)・小中和哉(以下:和哉)「『ミラーマンREFLEX』以来だね」
――2006年に公開された作品ですから、今回が13年ぶりということになりますね。兄弟で作品を作ることのメリットやデメリットはどんなことがありますか?
和哉「見て育ってきたものが一緒なので、お互いに何が好きか共通しているし、お互いの作品の嗜好もわかってるのがメリットですね。打ち合わせが短くて済む(笑)」
千昭「僕はホラーが本業で、彼はジュブナイル作品とかファンタジーを得意としているので、その辺りをすり合わせるとなると、無意識に僕も気を遣うし彼も気を遣っているのかな、と思う」
和哉「兄貴が振り切った方向に行き過ぎた時には、僕はそこまでついていけないところがあるかもしれないな。僕はもうちょっと感情面の部分を重視して作りたい方なので、組むときにはお互いにすり寄って、ほかの人と組むとき以上に“個性の共存点”を探ったりしています」
――今回の最新作『VAMP』、どのような経緯でプロジェクトがスタートしたのか教えてください。
和哉「僕らはビデオ会社が日本映画をオリジナルで作ってリリースし始めたVシネマの時代にデビューしたので、いまでも企画の持ち込み先はビデオメーカーが多くて、これも持ち込み企画だったんです。キングレコードに山口幸彦さんというホラー好きのプロデューサーがいて、彼に兄弟企画のホラーを持って行こうと相談を始めたのがきっかけです」
――ということは兄弟でやることは決まっていたと。
和哉「そうですね。久々に兄貴とホラー企画をやることと、キングレコードに持ち込むことは最初から決まっていました」
――実際に作品を拝見すると、ホラーというよりはダークファタジー色が強い作品になっていましたね。
千昭「最初はサイコホラーものにしようという構想だったんですけど、フィクションで楽しめるものがいいということになって。ずっと前に僕が短編で書いた小説があって、それが一種のラブストーリーでもありヴァンパイアものだった。元々は映画にしたいと思って書いたわけではなかったのですが、これがいいんじゃないかということになりました」
――日本映画ではヴァンパイアものの作品というのは比較的めずらしい印象です。
千昭「たしかに日本には吸血鬼というものが伝統的に存在していないけど、それを日本でどう成立させるかという試みは、かつてないわけではなかった。例えば『怪奇大作戦』の第6話『吸血地獄』に代表されるように、昭和の時代からインパクトのある作品があって、僕自身も清水崇監督と『稀人』という作品を作ったことがあります。でも、現代の日本でリアリズムを持たせるのは難しい。そんな時に血を嗜好するという“ヘマトフィリア”が存在するということを知って、それが『VAMP』へとつながりました」
――ほかに今回の作品のイメージのベースになったものは?
和哉「過去に兄貴と組んだ作品で『毒婦/プワゾン・ボディ』という作品があって、それも原点になっているんです。“殺欲”という欲求を持つヒロインがいて、完全なモンスターで感情移入の余地もないけれど、彼女には過去にトラウマがあって…という設定が、『VAMP』とほぼ同じなんです」
千昭「僕はホラーをやるときはキャラクターをドライに突き放すタイプなんですけど、『VAMP』では中丸シオンさんに演じてもらうという前提だったんで、『なぜそうなったか』というプロセスをじっくりと見せることにしたんです。そういった点で、ホラーというよりはドラマに寄っているのかも」
和哉「『毒婦』でもヒロインに惚れて追いかけ回す少年の目線があって、屈折したラブストーリーになっていたから僕に撮れたのだと思う。『VAMP』でもヴァンパイアの女性を愛してしまう、そういう関係性になる女性が出てくるからね」
千昭「という始まりでやろうとしていたドラマは前半まで(笑)。それで映画が終わると綺麗なんだけど、エンタテインメントとしてはどうなんだろうと思ったんです。結果、後半は観ている人が顎を外すようなものになったと思いますよ」
和哉「ダークファンタジー的な人間ドラマの前半パートがあって、そこから先は違う映画が始まる感覚ですね。観ている人にとってはおもしろいと思うか裏切られたと思うのか。評価が分かれる部分だと覚悟しています(笑)」
――苓役は中丸シオンさんが演じる前提だったと話に出ましたが、美以那役の高橋真悠さんを選んだ決め手は何だったのでしょうか?彼女は『西の魔女が死んだ』(08)以来14年ぶりの映画出演となりましたが。
和哉「2年ほど前にNHKの『ファミリーヒストリー』のオノヨーコさんの回で再現ドラマパートを演出した時に、現場で最初に出会いました。共演シーンはなかったですが、同じ現場に中丸さんもいて。それで『西の魔女が死んだ』のあの子が、いまこんな女性になっているんだなと思って、いいなと思ったわけです」
――和哉さんの監督作品といえば、これまでも妻夫木聡さんや福士蒼汰さん、吉沢亮さん、土屋太鳳さんらがブレイク前に出演されています。彼らのように今後ブレイクする俳優を発掘する決め手を教えてください。
和哉「役に合うかどうかが決め手ですね。売れてる人はなかなか使えないですし(笑)。これから伸びる役者さんたちのなかから一番良いなと思った人をキャスティングしただけなので、彼らが順当に評価されて出世しているということだと思っています。ただ、『なぞの転校生』に出演してくれた妻夫木くんだけはちょっと違いました」
――どのように違った?
和哉「彼はまったく演技ができなくて精一杯だったんです。初めての現場で、自分ではできると思っていたことができなかったことに気付いて呆然としたって、後々言っていました。それをバネにして次の『ウォーターボーイズ』から頑張ったって言うので、彼だけは、その成長に目を見張るものがありましたね。本当に、僕の現場ではまっすぐ立てなかったんですから」
千昭「(爆笑)」