北欧映画の中でも随一の独創さ!『ボーダー 二つの世界』が描く”境界線(ボーダー)”とは?
『ミレニアム』シリーズのヒット以降、北欧は独創的で良質のスリラーを産む土壌として、すっかり定着した感がある。そんな流れの中でも、現在公開中の『ボーダー 二つの世界』はとびっきり独創的だ。ハリウッドでもリメイクされた『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)の原作者で、”スウェーデンのスティーブン・キング“の異名をとるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが原作と共同脚本を務めた本作。設定も奇抜だが、物語も先が読めず意外性に富んでいる。
舞台はスウェーデン。人里離れた森の一軒家に住む女性ティーナは生まれつきの醜い容姿を気に病み、静かに暮らしていた。港の税関職員として働く彼女は、人間の悪意や恥を嗅ぎ分ける不思議な能力を持ち、違法物を持ち込もうとする者を次々と摘発する。そんなある日、怪しい旅行者ヴォーレを捕まえるものの、証拠が出なかったことから、彼は入国をパス。だが本能的に何かを感じたティーナは、ヴォーレに自宅の離れを宿として提供することに。一方で、彼女は児童ポルノ制作の疑いがある夫婦を調べるため、警察に協力していた。夫婦は限りなくクロに近いが、証拠探しは難航を極める。やがて、ヴォーレと惹かれ合う仲になっていたティーナだったが、その先に驚くべき事実が彼女を待ち受けていた……。
『ぼくのエリ』にも通じる詩的な映像世界
まず目を引くのは、ヒロイン、ティーナの独特の顔つきだ。額や鼻筋の隆起は、どこか動物的なものを感じさせる。そんな彼女の表情をクローズアップの多用で映しだし、ティーナを受け入れる森や林、泉の風景を美しく描いている。『ぼくのエリ 200歳の少女』にも通じる、詩的な映像世界。そしてミステリーは、そんなビジュアルに彩られながら不穏な空気を深めていく。児童ポルノ事件の真実とは?ティーナの理解者となるヴォーレは何者なのか?そしてティーナの出生の秘密とは?
物語が進むにつれて見えてくる世界の“境界線(ボーダー)”
中盤からは驚きの連続で、どこに連れて行かれるのか、まったくわからない。しかし、それはある意味、スリラーの醍醐味だ。そこに善悪や美醜、性別、人種などを分ける”境界線(ボーダー)”が見えてくるつくり。何よりもヘビーなのは、人間と自然の間に横たわる深い溝だ。欲望のままに地球を食い物にし、自然環境を破壊する人間は許されるのだろうか?ヒントは、ティーナが下す結論の中にある。イラン系デンマーク人の新鋭アリ・アッバシによるテーマ性を意識したドラマの演出、米アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた高度な特殊メイクアップ技術に注目しつつ、驚くべき真実を見届けてほしい。
文/有馬楽