マッツ・ミケルセンが語る、演じることへの情熱「映画出演を妻に報告すると、いつも呆れられてしまいます」

インタビュー

マッツ・ミケルセンが語る、演じることへの情熱「映画出演を妻に報告すると、いつも呆れられてしまいます」

雪と氷に覆われた極寒の白い荒野、北極での孤独なサバイバルを描くのが『残された者 -北の極地-』(公開中)だ。説明的なセリフや情報を排した本作で、ただ“生きる”ことに徹し続ける男を演じるのは、“北欧の至宝”ことデンマーク人俳優のマッツ・ミケルセン。ヨーロッパのインデペンデント系からハリウッド大作まで出演する彼が「最も過酷な撮影だった」と語る本作に惹かれた理由や、世界的スターとなった現在の心境について語ってもらった。



本作はオボァガードという名の男(マッツ)が熱心に大地を削り、“SOS”の文字を刻む場面から始まる。近くには墜落したと思われる飛行機があり、魚を釣るワナも仕掛けられている。また、オボァガードの足の指が凍傷により欠損しており、彼がこの飛行機の乗務員で遭難からすでに数日が経っていることを想像させる。

北極を舞台に、遭難した男・オボァガードのサバイバルを描く『残された者-北の極地-』
北極を舞台に、遭難した男・オボァガードのサバイバルを描く『残された者-北の極地-』[c] 2018 Arctic The Movie, LLC.

「誰もがオボァガードに自身を重ねられるような作品です」

主人公のバックグラウンドなどはほとんど説明されないまま物語が進む本作だが、マッツが関心を寄せたのはまさにその点だった。「キャラクターが興味深かったというよりは、人間性や人間そのものを描いているところに惹かれました。過去のサバイバル映画で使われた手法を用いれば、容易に観客にいろいろな感情を掻き立てさせることができたと思います。しかし、敢えてそうはせずに、誰もがオボァガードに自身を重ねられるような作品にしているんです」と説明する。

これらの特徴は脚本段階ですでに存在していたとマッツは続ける。「僕にとってすごくサプライズをはらんだ脚本で、ワクワクしながら読みました。いわゆる、フラッシュバックのシーンがあったり、家族の写真が出てきたりと主人公の“記憶”が大きなものとして存在しない、すごくクリーンな物語だったんです」

熱心に意見を交わし合うジョー監督とマッツ
熱心に意見を交わし合うジョー監督とマッツ[c] 2018 Arctic The Movie, LLC.

ジョー・ペナ監督ともすぐに意気投合したようで、「最初にスカイプで打ち合わせをすることになったのですが、盛り上がりすぎて2時間、3時間という会話になってしまいました(笑)。ジョーには描きたいことがハッキリ見えていて全くブレがなかったですね。それが、僕がこの作品に感じたものと合致したんです。その2か月後にはアイスランドで撮影していたので、展開は早かったですね」

墜落した飛行機で寝食をやり過ごすオボァガード
墜落した飛行機で寝食をやり過ごすオボァガード[c] 2018 Arctic The Movie, LLC.

「多くの意味で彼女の存在がオボァガードを救います」

ルーティン的に食事を取り、救難信号を送るだけだったオボァガードの日々は、途中で現れるもう一人の遭難者の女性によって一変する。瀕死の彼女を救うため、彼は住み慣れた飛行機を離れ、遠く離れた観測基地へ向かうことを決意するのだ。「多くの意味で彼女の存在がオボァガードを救うことになります。一人でいた時は、そこに希望はなく夢もない、生存本能だけなんです。ところが、彼女の登場によって、彼の人間性が突然戻ってくるんです。彼女がいなければ、1週間、10年と同じ生活を繰り返すだけだったと思いますよ」とマッツが語るように、“生きる”だけの物語が“生き残る”ことへとシフトしていく。

「オボァガードが彼女に対して、『大丈夫。一人じゃない』と語りかけるシーンがあるのですが、あれは自分自身への言葉でもあります。彼女の存在が彼に生きる可能性を与えると共に、犠牲を払ってでも試練に立ち向かおうとさせるのです」

瀕死状態の女性遭難者を救うため、住み慣れた飛行機から旅立つ決意をする
瀕死状態の女性遭難者を救うため、住み慣れた飛行機から旅立つ決意をする[c] 2018 Arctic The Movie, LLC.

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