マッツ・ミケルセンが語る、演じることへの情熱「映画出演を妻に報告すると、いつも呆れられてしまいます」
「ジョーにはより良い作品を撮ろうという根源的な意志の強さがある」
ブラジル出身のジョー・ペナ監督は、YouTubeチャンネル「Mystery Guitar Man」で音楽とストップモーション動画を組み合わせたミュージックビデオや短編映画を配信し、人気を博した異色のクリエイターだ。デビュー作となったデンマーク映画『プッシャー』シリーズのニコラス・ウィンディング・レフン、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)のギャレス・エドワーズなど、様々な個性あふれる監督と仕事を共にしてきたマッツだが、彼にとって本作のジョーはどう映ったのだろうか。
「ニコラスのデビュー作でもある『プッシャー』(97)のほか、多くの誰かの初長編映画に参加してきました。ジョーとの仕事も彼らと同じく、とても新鮮なものでした。限られた製作費の中で、より良い作品を撮ろうという根源的な意志の強さが彼にはあるんです。映画製作はすごくエネルギーを消費するものなのですが、ジョーの集中力にはとても驚きました。いまはiPhoneでも映画が撮れる時代で、誰もが映画監督になれる可能性があると思います。それでも、それぞれのパーソナリティやストーリーテリングは重要で、その点でも彼は才能にあふれていました」
「興味を惹かれる作品や役柄は、エクストリームなものが多い」
ドラマ「ハンニバル」シリーズでレクター博士を演じ、12年に出演した『偽りなき者』ではカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞するなど、人気・実力共に確固たる地位を築いたマッツ。そんな現在の状況をどのように捉えているのだろうか?
「例えば、俳優として公園などで人物観察をしたいと思うのですが、そういうことはだんだん難しくなってきました。でも、困ったことにあまり自分が世間に知られているという自覚がないんです(笑)。普通に家のドアを開けて外に出て、そこで誰かに声をかけられて、やっと思い出すくらいなんです」
19年はNetflix配信のバイオレンスアクション『ポーラー 狙われた暗殺者』で主演を務め、世界的なゲームクリエイター・小島秀夫の最新作ゲーム「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」(11月8日発売)にキャラクターのモデリングで出演するなど、その活躍の幅はますます広がるばかり。俳優としての尽きない探求心はどこから湧いてくるのだろうか?
「自分を突き動かす、興味を惹かれる作品や役柄というのは、ちょっとぎこちなさがあってエクストリームなものが多いですね。危険性をはらんだ物語である必要はないのですが、チャレンジしがいのある作品に出会うと、つい『YES!』と答えてしまうんです。そのような挑戦するエネルギーというのはすり減っていくものだと思っていましたが、幸せなことに僕はあまり感じていませんね。いつも出演が決まって妻に報告すると、『また?』と呆れられてしまいます(笑)」
新鋭監督のヴィジョンに共感し、孤独なサバイバルを送る主人公の苦悩や葛藤を抑えた“静の演技”で体現したマッツ・ミケルセン。輝かしいキャリアを持つ彼が、いま最もチャレンジしがいのある役柄だと感じた本作の魅力を、スクリーンで体感してほしい!
取材・文/トライワークス(平尾嘉浩)