【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第14回 漫画喫茶で漫画も読まず、お茶も飲まずにゴメンナサイ。
「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第14回は、松本監督流、漫画喫茶の使い方について。
漫画喫茶で漫画も読まず、お茶も飲まずにゴメンナサイ。
神奈川県民になって丸2年が経った。大学の都合もあり実家から今の家に引っ越してきたのだが、当初はまあなんてことのない住宅地だった近隣が、最近になってものすごいスピードで進化している。特に駅前なんてちょっと前までスーパーと小さなカレー屋、ドトールくらいだったのに、今やドトールはDEAN&DELUCAに変わり、タピオカ屋、さらにはスタバが2店舗もできた。休日だって都心に出なくたって充分楽しめるし、駅近で家賃もそこまで高くなくなかなかナイスな場所ではあるのだが、次の契約更新の時期が来たら都内へ引っ越すことを決めている。
それはたとえ電車で渋谷新宿まで30分もあれば行ける距離であれども、忘れちゃいけないどうしたってここは神奈川県、都内からの終電に乗り遅れた時に絶望するからだ。タクシーで帰ろうもんなら深夜料金が含まれて1万円は余裕で吹っ飛ぶ。そりゃあもちろん、終電に乗れる時間にちゃんと家に帰るように生活するのが正しいのは分かっているが、中々そういうわけにいかない時もある。久しぶりに会った友人との飲み会の日や、ギリギリ帰れそうではあるものの翌日撮影でまた始発で都内へ出なければならない日などはどうしても睡眠時間を優先させたくなってしまう。
そんな日は大抵、漫画喫茶へと足を運ぶ。せっかくだからと普段美容院でしか読まないような女性誌を数冊部屋へと持ち込むが、めくって数ページで力尽きて眠ってしまうのがオチだ。そして数時間ほど仮眠をとった後に寝起き悪く目覚めると、女性誌の表紙に映る綺麗なモデルさんと目の前のパソコン画面に映るボサボサ頭の自分を否応なしに比較し、何やってんだ自分、おいこら、化粧くらい落としてから寝ろ、ってかせめて風呂入れ!と叱責したくなる。
そんなこんなで私の財布にはあらゆる店舗の漫画喫茶のポイント・カードが入っているのだが、それを先日知人に見られてしまった。少々引かれているのを肌で感じながらも、「漫画喫茶って響き、何かエロくない?」と真顔で言われたが、どうも曖昧にうなづくことしかできなかった。
私の漫画喫茶ライフにおいてそんなときめくようなことが起きたことは一度もなく(行く時間が深夜というのもあるが)、というか他者との交流自体がそもそもない。
カラオケなど他の個室の店とは違い、隣の部屋との壁の高さはとても低く壁も薄いというか筒抜けで、何かあれば即バレるであろう。
いつかもし漫画喫茶を舞台に映像を撮る機会があれば、その構造を利用して真俯瞰から各部屋の様子を一画面に映した撮影をしてみたいと思うものである。
●松本花奈プロフィール
1998年生まれ。映像監督。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』('16)、『キスカム!〜come on,kiss me again!』('19)など。SHISHAMOとサントリーなっちゃんのコラボ短編『またね』がYouTubeで公開中。
文/松本花奈