「原作ファンと映画版のファン、どちらも満足させる」伝説のホラー『シャイニング』への強い想いが明らかに!
「IT/イット」や「キャリー」などで知られるホラー小説界の大家スティーヴン・キングの代表作のひとつで、巨匠スタンリー・キューブリック監督が映画化した『シャイニング』(80)。いまなおホラー映画界の金字塔として語り継がれている同作の40年後を描いた『ドクター・スリープ』(11月29日公開)で主人公ダニーを演じたユアン・マクレガーとメガホンをとったマイク・フラナガン監督は、2人の巨匠が作り出した伝説の作品に対して畏敬の念を込めながら、本作への想いを語ってくれた。
40年前、雪深い山奥にあるオーバールック・ホテルで起きた惨劇を生き残ったダニー・トランス。トラウマを抱え、人目を避けるように孤独な暮らしを続けていた彼のもとに、謎の少女アブラからメッセージが送られてくる。彼女は特別な力“シャイニング”を持ち、児童連続失踪事件の現場を目撃してしまい、狂信的な集団に命を狙われているというのだ。事件の謎を追い始めた2人は、やがてダニーにとって運命の場所である、あの呪われたホテルにたどり着くことに…。
「『シャイニング』は世界で一番怖い映画だと言われていたから、僕は10代後半になるまで観たことがなかったんだ。観てみたらとんでもなく怖くて、結局それ以来観ていなかったよ…」とホラー映画が大の苦手であることを告白するユアン。「でもこの映画の脚本を読んだ後に観直すことにした。そして『シャイニング』の原作も『ドクター・スリープ』の原作小説も読んだ。それは僕らが忠実な映画化を目指すために、もっとも重要なことだと思ったからだ」。
さらにユアンは、『シャイニング』でジャックを演じた名優ジャック・ニコルソンの出演作をたくさん観たことを明かす。「僕はジャックではなく彼の息子を演じるのだから、僕は彼の息子のようになりたかったんだ。人間として、僕らは自分たちの両親の資質をいくらか身につけざるを得ない。どんなに努力しても、自分の父親みたいになるものだからね」と、本作で自身が演じるダニーが紛れもなく『シャイニング』のジャックの息子であると観客が思えるよう、主に声色を意識して役作りに励んだことを語った。
キューブリック監督が『シャイニング』を手掛けた当時、原作を大きく改変したことでキングと対立したことはよく知られている。そのため「シャイニング」という物語には、キングファンを中心とした原作ファンとキューブリックを崇拝する映画版のファンがそれぞれ存在しているといっても過言ではないだろう。「小説のファンとキューブリックの映画版のファン、そのどちらも満足させることは主にマイク(・フラナガン監督)の仕事だった」と本作の最も重要な部分に触れるユアン。
それについてフラナガン監督は「キングの小説を忠実な形で映画化すべきだという強い思いがあったと同時に、キューブリックの映画版を崇拝する気持ちもあった。この作品に取り組み始めた当初は、自分の中でその2つがぶつかり合っていた」と振り返る。「でも自分のためにそれをうまくやることができたら、観客にも満足してもらえる作品になるんじゃないかと考えたんだ」と、原作と映画両方のファンとして真摯に向き合ったことを明かした。
そんなフラナガン監督は「10歳くらいの頃に『シャイニング』を観て、すべてが変わった」と語るほど、映画版から多大なる影響を受けた人物のひとり。「両親が止めたにもかかわらず友だちの家で観た。それをきっかけに映画が怖く、おもしろいものになったと思ってる。心理的スリラーの持つ可能性や映画で表現できる緊張感を僕に教えてくれた作品だ」と、前作との出会いがフラナガンを映画監督というキャリアに導いたことをほのめかした。
前作が公開された当時、まだ超能力を題材にした作品は決して多くなかった。しかしいまでは映画やドラマなどメディアを問わず数多く作られるようになり、「ストレンジャー・シングス」や「ザ・ボーイズ」など配信ドラマでも絶大な人気を博している。「こうしたパワーや能力を持った人たちのストーリーは、とても長い間僕らとともに存在してきた。スーパーヒーローやホラーができる前から、僕ら人間は神話や宗教でこうした物語に魅了されてきたんだ。時代によってそれを表現する方法が変わってきただけだ」とその人気の理由を分析するフラナガン監督。「たとえばマーベル映画は古代ギリシャにおける“神のオリジン・ストーリー”のようなものだ。常に僕らと一緒にあり続けるストーリーだから、安心して作ることができたよ」と、本作への確かな手応えをのぞかせていた。
文/久保田 和馬