【短期集中連載】藤原竜也という才能<1>『BR』『デスノート』『カイジ』…駆け抜けた10代から20代、“天才”を育んだ蜷川幸雄との絆
映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍し、確かな演技力で観る者の心をわしづかみにしてきた実力派俳優・藤原竜也。20年を超えるキャリアを重ねたいまなお、どこか少年っぽい雰囲気を漂わせ、ちょっとやんちゃで可愛い笑顔の持ち主でありながら、演じる役は決して一筋縄ではいかないアクの強いキャラクターばかり。難しい実写化作品にも果敢に挑戦し、俳優として高い評価を獲得してきた彼の10~20代を振り返ってみよう。
藤原竜也のデビューは1997年、15歳の時。若手タレントの王道であるCMやドラマではなく、“世界のニナガワ”と呼ばれた演出家の蜷川幸雄が手掛けた舞台「身毒丸」で主演デビューを果たす。この時の蜷川との出会いこそが、その後の藤原の役者人生を決定づけたと言っていい。
そもそも藤原が「身毒丸」の主役オーディションを受けたのは、池袋でスカウトされたことがきっかけ。演技の経験も興味もまったくなかった少年が、5000人を超える応募者の中からいきなりグランプリに選ばれてしまったのだ。演技指導が非常に厳しいことで知られる蜷川だけに、藤原は地獄のような稽古に何度も泣き、「やめたい」と思いながらも必死に食らいついていった。結果、上演した舞台は大好評。ロンドンのバービカン・センターでの公演では、“15歳で初舞台とは思えぬ存在感”“天才新人現る”と絶賛され、センセーショナルなデビューを飾った。
以降、蜷川とのタッグは続き、日本演劇史上最年少となる21歳でタイトルロールを演じ、主要な演劇賞を総なめにした「ハムレット」や、ロミオ役を演じた「ロミオとジュリエット」など数多くの舞台を経験。過酷な稽古で精神をすり減らしながらも、役者としての力を着実に積み上げていった。
2016年5月、蜷川幸雄が80歳で亡くなった際に告別式で弔辞を読んだのも藤原だった。「ハムレット」の稽古で蜷川に言われた「もっと苦しめ、泥水に顔を突っ込んで、もがいて、苦しんで、本当にどうしようもなくなった時に手を挙げろ。その手を必ず俺が引っ張ってやるから」という言葉を振り返り、「1997年、蜷川さん、あなたは僕を産みました。19年間、苦しくも…ほぼ憎しみしかないですけど、最高の演劇人生をありがとうございました」と、藤原が顔をクシャクシャにしながら声を絞りだす様子は、日本中を感動に包み込んだ。
このようなバックボーンを持つ俳優は、そうはいない。映画では、藤原竜也は18歳の時、深作欣二監督にその才能を見込まれ、『バトル・ロワイアル』(00)の主演に抜擢されている。同作は、40人の中学生たちが最後の1人になるまで殺し合わなければいけない、という衝撃的なストーリーで、“20世紀最後の問題作”と言われた傑作。深作監督の撮影現場は毎日激しい喝が飛び、リハーサルが深夜までおよぶこともざらだったという。だが、蜷川に鍛えられた藤原にとっては苦よりも、映画の新鮮さ、楽しさの方が大きかったのではないだろうか。
主人公である七原秋也の葛藤と悲壮感を迫真の演技で体現した彼は、第24回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞と新人俳優賞、第43回ブルーリボン新人賞を受賞。名実ともに若手実力派俳優のトップとなり、深作監督の遺作である『バトル・ロワイアルⅡ 鎮魂歌<レクイエム>』(03)でも主演を務めた。
2004年には「新選組!」の沖田総司役で、NHK大河ドラマに初出演。2006年の『デスノート』と『デスノート the Last name』では、名前を書き込まれた人間に死をもたらすことができる死神のノート“デスノート”を使って犯罪者を殺し、理想の社会を作り上げようとする天才高校生の夜神月を怪演。原作コミックの熱烈なファンが多かったため、実写化は不安視されていたが、好青年が狂気にかられ殺人鬼へと変貌していくさまを見事に演じ、称賛の声が上がった。
そして、同じく大人気コミックを実写映画化した2009年の『カイジ 人生逆転ゲーム』では、定職につかず、借金まみれのダメ人間、伊藤カイジ役がドハマり!2011年の『カイジ2 人生奪回ゲーム』も大ヒットし、毎回命懸けのゲームに身を投じるハメになる青年カイジは、藤原の新たな当たり役となった。
10代から20代にかけて、次々と社会現象になるような作品に出演してきた藤原竜也。さらに役柄では、不条理な世界で、死と直面するような強烈なキャラクターを演じることが多かった。スクリーンを通しても圧倒的な熱量で伝わってくる藤原の演技のパワーは、恩師である蜷川幸雄が引きだしたものであり、彼自身が長年、舞台で培ってきたものだ。藤原竜也にしかできない役を全力で演じながら、彼はいつだって最高のカタルシスを生みだしていく。
文/石塚圭子
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