第一次世界大戦の記録映像を徹底的に復元!映画『彼らは生きていた』の途方もない作業プロセスとは?
テクノロジーの発展により、監督が自らの過去作をリマスターしたり、モノクロ映像をカラーにしたりということが珍しくなくなったこの頃。そんななかでも他に類を見ないほど細部まで徹底的にこだわって過去の映像を復元し、再構築されたドキュメンタリー映画『彼らは生きていた』(公開中)に注目したい。
第一次世界大戦の終結から100周年を記念して作られた本作は、イギリス帝国戦争博物館に所蔵されていた大戦時に西部戦線で撮影された映像を、『ロード・オブ・ザ・リング』&『ホビット』シリーズのピーター・ジャクソン監督のもと、映像の修復やカラーリングなどを行い1本の映画として完成させたもの。熾烈を極める戦場での風景をはじめ、食事や休息などを取る兵士の日常など、死と隣り合わせの過酷な状況下で生きた人々の姿を映し出していく。
フレームのレートを変えて、違和感のない映像を構築
映像の復元にとてつもなく手間がかかっている本作。その作業は、変容・着色・ステレオスコピック3D(立体視可能な映像)と大きく3つに分けることができ、少なくとも2200時間分にも及ぶアーカイブ映像の中から数百時間をスキャンし、ニュージーランドのパーク・ロード・ポスト・プロダクションに送るというところからスタートした。
変容の過程では、まず100年の間に生じた映像に見られるあらゆる種類の傷やゴミを、それぞれに合わせた方法で取り除き、さらにノイズを除去。そして、フレームレートをそろえるという厄介な作業も行う。
現在の映画は、1秒24フレーム(コマ)で撮影されているが、アーカイブ映像は手動カメラで撮られているため16フレームで撮影されていたり、10フレームだったり、はたまた18フレームだったりと、レートがバラバラ。24フレームに統一するため存在する素材を用いて人工的にフレームを作り、その前後の映像のフレーム数を推定して調整、確認するという気の遠くなるような作業が施されている。
歴史家の協力やフィールドワークによってモノクロ映像を着色
そうして変容された映像は、次にアメリカのスタジオ・ステレオDに送られ、着色の段階に入る。この作業には、歴史や時代背景に関する正確な情報が必要だったため、著名な歴史家の見解も取り入れられ、兵隊一人ひとりの階級や制服の色などが徹底的にリサーチされた。
さらにジャクソンとチームは、映像に登場する土地にも足を運び、何千枚という写真を撮ったのだそう。これらの資料をもとに、ステレオDのアーティストたちによる骨の折れるような作業を経て、白黒映像をカラーリング。たった1回しか登場しないヤギ皮のベストなど、細部に至るまで入念な作業が行われたというから驚きだ。
そして、出来上がったコンテンツをステレオスコピック3Dに変容させるという最終段階に入る。これは、映像を観る者が、3Dになった空間に対して違和感を覚えないようにするため、カラー合成監督のもと“自分もその中にいる”と感じられる映像に仕上げられた。