【カンヌ国際映画祭】コンペティション部門、後半に登場した作品の印象は?

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【カンヌ国際映画祭】コンペティション部門、後半に登場した作品の印象は?

20本のコンペ作品を見終わって、これは残るだろうという作品が見えてきた。

後半には有名監督たちの作品が並び、手堅い評価をされているが、ブラボーの拍手とブーイングが並んだのはテレンス・マリック監督『ツリー・オブ・ライフ』(8月12日公開)とラデュ・ミヘイレアニュ監督の『The Source』だ。マリック監督の場合も映画自体の評価は高いが、難解であることとブラッド・ピット狙いで見た人たちの期待と違う作品展開をしたことに対してのブーイングだったのではないか。それに対して『The source』へのそれはもう少し複雑な問題を含んでいる。

物語は「新聞記事から始まった」と監督。ルーマニア人で『約束の旅路』(07)、『オーケストラ!』(10)など歴史や政治に翻弄され、それでも負けない人や家族の物語を描いてきた監督だ。モロッコの山岳部の小さな村で女たちが起こしたラブ・ストライキをユーモアを含めつつシリアスに描き出す。制作会社はフランスだが、出演者は北アフリカの血を引くアラブ系の俳優たち。モロッコの方言を特訓して撮影に挑んだという。

一番大きなブラボーの声と拍手の起こった作品だが、ブーイングも力強くしつこかったのはイスラムの文化に関する異議申し立てを感じた人たちがいたということだろう。しかし、イスラムと欧米文化の対立、というより女性の人権に関しての普遍的な問題提起をした作品であると言える本作は、パルム・ドール候補として良い位置に着けたと言えよう。

さて、その他の後半注目作について紹介しよう。『ツリー・オブ・ライフ』は批評家の評価は世界、フランス共に高い。本作のスターは批評家にとっては監督自身。公式記者会見にも現れないという孤高の作家だが、哲学的なビジョンを持って描かれる自然と一つの家族の葛藤がマリックを待ち望んでいた人々に興奮を持って受け入れられたのだろう。監督に代わり、プロデューサーでもあるブラッド・ピットが大奮闘してスポークスマンを務めたのが微笑ましかった。

後半はカンヌの常連監督が続く。アキ・カウリスマキの『Le Havre』は、既に批評家協会賞とキリスト教会賞(エキュメニック賞)を受賞。フランスの港町ル・アーブルで靴磨きをして暮らす初老の男のささやかな人生の物語。一種、貧しい正直者に訪れる奇跡の話なのでエキュメニック賞にはふさわしい作品だと思う。

今年一番の話題作になってしまったのがラース・フォン・トリアー監督の『Melancholia』(2011年内公開予定)だ。地球の最後を描く作品なのだが、それをブルジョワ一家の家族崩壊と重ねて見せるところが彼らしい異色作であった。映像も美しく、イマジネーションの豊かさはさすが、二度目のパルム・ドールも、と言われていたのに、記者会見での「ヒトラーの気持ちがわかる」発言で墓穴を掘り、どうにか映画はコンペに残されたものの、監督本人は「望まれざる人物」としてカンヌに出入り禁止になってしまう。ショックで妊娠中のシャルロット・ゲンズブールはインタビューをキャンセル。他のキャストが騒動の火消しに努めていた。

そして、ラース騒動をリセットするかのように華やかに上映されたのがペドロ・アルモドバル監督の『The Skin I Live In』。21年ぶりにアルモドバル作品に帰ってきたアントニオ・バンデラスが傷心の整形外科医をセクシーに演ずる。謎めいた美女に再生皮膚移植を繰り返す彼の真意は何なのか? 物語は思いがけない方向へと自在に転がっていく。公式上映にはきらびやかなドレス姿の女優たちが世界から集まり、華を添えた。批評もまずまず。

ショーン・ペンが引退したロック・スターを演じることで話題になっていたイタリアのパオロ・ソレンティーノ監督『This Must Be The Place』もまあまあの評判。白塗りに口紅、髪はぼさぼさで黒づくめ、プラットフォームブーツという異装のペンは、その変身ぶりに男優賞か、の声も。ハイチを回っていたようでカンヌ入りが遅れ、もう一本の出演作『ツリー・オブ・ライフ』の記者会見は欠席したが、こちらの会見には出席。しかし何となくお疲れの様子でご機嫌麗しく、という感じではなかったのはなぜだろう。

そして締めに登場したのが冒頭で触れた『The Source』である。どの作品よりも力強い拍手に、カンヌはこれをパルム・ドール有力候補として最後に置いたのかとふと思った。

そして、これから10時間後に結果が出る。第64回カンヌ国際映画祭も大団円を迎えている。【シネマアナリスト/まつかわゆま】

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