容赦ない“負の連鎖”…『ヘレディタリー』『ミッドサマー』から読み解く、新鋭アリ・アスターの才気
祖母の死をきっかけに凄惨かつ不審な事件に見舞われる家族の崩壊を大胆な展開で描き、ジャンル映画ファンの枠を超えて観客を驚かせ、また熱狂させた衝撃のスリラー『ヘレディタリー/継承』(18)。高評価を博した本作で、新人監督アリ・アスターは一躍、世界で注目の存在となった。そんな彼の待望の新作『ミッドサマー』(公開中)がいよいよ日本公開されたが、これがまたとんでもない作品なので、心の準備をしておいてほしい。
白夜の村で行われる恐怖の夏至祭とは?
主人公は、恋人クリスチャン(ジャック・レイナー)との関係がうまくいかず思い悩んでいるアメリカ在住の女子大生ダニー(フローレンス・ピュー)。彼女の苦悩は、双極性障害を患っていた実家の妹が両親と一家心中したことで加速。絶望の淵に立つ彼女に同情し、クリスチャンは悪友たちと行く予定だったスウェーデン旅行に彼女を誘うことに。目的地の村では90年に一度の夏至祭が開かれることになっており、村人たちは着飾って出し物を披露するらしい。白夜の現地を訪れたダニーは解放感を味わう。しかし、それもつかの間。彼女は夏至祭の恐ろしい実態を目の当たりにし、それに取り込まれていく…。
登場人物に降りかかる容赦ない“負の連鎖”が物語の重要なエッセンス
唐突にやってくる肉親の死。それはアスター監督の作品における重要なエッセンスだ。『ヘレディタリー』では祖母の死、愛娘の死と、立て続けに家族に不幸が襲いかかる。さかのぼれば、アスターのキャリア初期の短編『The Strange Things About The Johnson's』でも、異常な状況下にある家族の不意の死が描かれていた。『ミッドサマー』のそれは、より悲劇的だ。ヒロイン、ダニーは自分以外の家族の一家心中という絶望を経験し、苦悶の中で生き続けねばならないのだから。ほかにも息を呑むような映像美とバイオレンスの対比、緻密な音響設計など、ストーリーテリングの技術にもアスターの特徴的な才気が、みなぎっている。
監督の失恋経験がもとになった『ミッドサマー』はハッピーエンドを迎える?
誰であれ、家族の死に直面したならば少なからず動揺を覚える。映画を観ていても同様で、登場人物に感情移入したなら、その肉親の死に足元のぐらつきを覚えるだろう。アスターの作品は、そんな残された者の苦しみを基盤にして、より恐ろしい世界へと観客を誘う。『ミッドサマー』もそんな公式に則ったスリラーだ。ダニーが異国の祭で目にするのは、死や殺人、セックス、そして怪しい儀式…一体彼女に、どんな運命が待ち受けているのか?おもしろいことに、アスターは自身の失恋体験をもとに、本作を作ったという。そして、怖い映画であるにもかかわらず、それはハッピーエンドであると語る。『ヘレディタリー』以上の衝撃的な結末に、あなたはなにを見るだろうか?
文/有馬楽