今年の夏は伝説の映画監督テレンス・マリックの動向に注目
先日のカンヌ国際映画祭で、最新作『ツリー・オブ・ライフ』(8月12日公開)がパルム・ドールに輝いたテレンス・マリック監督。約30年前に『天国の日々』(78)で同映画祭監督賞を受賞して以来の快挙だが、監督本人は公の場に姿を見せない、謎めいた孤高の作家と知られており、今回も公式会見だけでなく、授賞式にも出席しなかった。
そもそも監督は、その経歴からも異色さが際立っている人物だ。ハーバード大学、オックスフォード大学という名門校を卒業後、マサチューセッツ大学で哲学の講師を務める傍ら、ジャーナリストとしても活動、1973年に『地獄の逃避行』で監督デビューした。1979年には監督2作目『天国の日々』で前述のように高い評価を得るが、その後、1998年に『シン・レッド・ライン』を撮るまで、約20年のブランクを要しており、『ツリー・オブ・ライフ』を含めて、38年間でわずか5本の長編映画しか残していない。
そんな寡作ぶりから、常に新作を待ち望むファンはやきもきさせられていたが、監督は早くもベン・アフレック主演の次回作に取りかかっており、さらにもう1本の新作をこの夏にも撮影開始するとの噂も流れている。そして日本では、『ツリー・オブ・ライフ』公開に併せ、8月27日(土)から『天国の日々』がリバイバル上映されることも決定。ここに来て伝説の巨匠の周囲が俄然にぎやかになってきた。
『天国の日々』は、第一次世界大戦中のアメリカ中西部にある大規模農場を舞台に、時代に翻弄される4人の人間の姿を描いたドラマだ。“マジックアワー”と呼ばれる日没時の空など、息をのむような美しい映像に淡々としたモノローグが重なり、人間と自然との関係性が深遠な語り口で綴られる作品となっている。詩的な映像と哲学的な視点は、父と子の関係性と愛を壮大に描いた『ツリー・オブ・ライフ』と重なる部分も見受けられる。カンヌで絶賛された2本が30年の時を越えて同時期にスクリーンで鑑賞できるこの機会は、映画ファンならずとも逃せないだろう。今後の動向も含めて、この夏は改めてテレンス・マリックに注目してみてほしい。【トライワークス】