ゴジラ、ガメラ、ウルトラマン…三池敏夫特撮監督が語る、『Fukushima 50』リアリティの追求と特撮の未来
「この作品は、これまで35年間映画の仕事をしてきた自分にとって、とても大事な仕事になるだろうという覚悟を持って臨みました」。2011年3月11日、日本の観測史上最大の東日本大震災によって発生した巨大津波によって、未曾有の危機的事態に陥った福島第一原子力発電所。その現場で起きていた知られざるドラマを描きだした『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)が公開中だ。特撮・VFX監督を務めた三池敏夫は、本作に携わる上で持った心構えについて「とても責任重大だと感じていた」と振り返る。
「津波の表現は、多少残酷でも現実に起きたことをちゃんと表現しようとした」
「最初に原作をいただき、現場の人がどう携わってどう動いたか、絶望的な状況のなかでなんとかしようと頑張った人がいたことを知りました。この映画で描く出来事は日本人のほとんどが知っている事件ですから、表現をおろそかにすることはできない。一方で津波や原発事故にまきこまれた当事者の方々が見ることを思えば様々な配慮も必要です」
80年代に特撮美術としてのキャリアをスタートさせた三池は、『ゴジラvsキングギドラ』(91)を皮切りに「ゴジラ」シリーズに複数本携わり、その一方で大映が製作した「平成ガメラ」シリーズにも参加。「ウルトラマン」シリーズや近年アニメーション化されて再注目を集めている「電光超人グリッドマン」など日本を代表する特撮作品に次々と携わる。ほかにもクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル vol.1』(03)、『男たちの大和/YAMATO』(05)、『巨神兵東京に現わる』(12)など多種多様な作品を手掛けてきた。
本作ではメガホンをとる若松節朗監督らと話し合いを重ね、事実関係はもちろん実際に原子力発電所を見学して入念に下調べを行なったのだという。「僕らはニュースを通して原子炉建屋の爆発も、遠くから見た監視カメラの映像も知っている。でも最前線で働いていた人たちの映像は記録に残っていなくてほとんど伝わってこなかった部分だから、その場で撮影したかのような臨場感を持って描くことが自分の役割でした」と、映画全体のリアリティを裏付けるための打ち合わせや資料調べだけで、実に半年近い歳月を費やしたとのこと。
そうしたなかで最も苦労したシーンはどこかと訊ねると、三池は映画冒頭に登場する津波のシーンだと即答した。「あの時の津波は誰もが記憶に残っていること。生ぬるい表現でもいけないし、人が飲み込まれるような表現もどうかなと気にしていましたが、監督とのやり取りのなかで『多少残酷でも現実に起きたことをちゃんと表現しよう』と、巨大津波が原発を襲う映像を作る事になりました。CGシミュレーションで津波を表現することに本当に時間がかかって、1年がかりの作業になりました」と技術的な部分での苦労を明かす。
「撮影の現場にある、構造物や地下の手すりなどの凹凸。そういったものの立体情報を3Dでスキャンして、それに対してぶつかった水が弾けるようにリアリティを持たせています。だからただ水が流れているのではなく、きちんと凹凸に沿って動いている。絶対に手加減できないと思ってやっていたからどんどん時間がかかってしまい、ダビングの音を入れる作業が迫っているのにまだ最終的な画が完成していなくてやきもきしていましたね」