【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第19回 24時、天神駅集合(その2)
「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第19回は、大学の友人3人と行った、卒業旅行のエピソードその2。
第19回 24時、天神駅集合(その2)
「私、1カ月前に彼氏と別れた時にSNS全部消しちゃったから、今、ないんだよね…」 そんなナオをどうにか励まそうと私たちが考えついた苦肉の策が、“Tinderで素敵な福岡ボーイを探す”ことだった。私もよく知らなかったのだが、どうやらTinderというのはFacebookと連動していて友達の友達が表示されたりもするらしい。実際にやってみると、見覚えのある顔だと思ったら目の前にいるタカシだった…。
夜になり、博多と言えばもつ鍋でしょ!と意見が一致した。狭い座敷で肩寄せ合って、ひとつの鍋を突き合う。熱々の湯気と多幸感に包まれながらうっすらと眠気すら感じていると、横のナオに腕をつかまれた。「ねえ、見て!」と興奮した声で差し出されたスマホ画面には「今から会えない?」の文字。Tinderアプリに表示されているアイコンにはギリギリ目が見えない横顔の黒髪イケメン風ボーイがいる。「まじ?」と私がリアクションするかしないか、向かいのタカシとマミコがなんだなんだ、とナオの手からスマホを奪った。
3時間後。天神駅に「なんなんだよ、もうー!!!!」とナオの呻き声が轟いた。
会えます、と返信をするととんとん拍子に話は進み、24時に天神駅前で集合をすることになった。さっきまでの勢いは何処へやら事が前進し出すと、やっぱ怖くない?とビビり出したタカシとマミコを置いて、ナオと私は待ち合わせ場所へと足を運んだ。黒髪イケメン風ボーイは溝端淳平似の正真正銘のイケメンだったが、言動がひどかった。開口一番「俺、今月仕事忙しくて休みなくて、すっげえ疲れてるんだよね。どっか店行くのもダルイから宅飲みで良い?」「女の子2人いるとちょい面倒だからどっちかひとり帰ってくれない? どっちでも良いからさ」と言い出す始末。ろくな奴じゃない。
深夜1時、すっかり人気の消えた橋の上を歩きながらナオの「仕事が忙しいなら恋愛するな」論を聞いていた。というのも、ナオが元カレにフラれた原因がまさにこれだったそうだ。少しだけ耳が痛い話だ。私もそう言われてフラれたことがあるし、自分がフったこともある。
ただひとつ言えるとしたら、恋愛には覚悟が必要だということだろう。覚悟と責任感がないなら仕事を任せられないのと同じで、覚悟と責任感がないなかでする恋愛はきっと相手を傷つける。なんて偉そうなことを言っていても実際はそうそう上手くはいかないのだが。そんなことを考えながら橋を渡りきり振り返ると、天神駅は遥か遠くにあるように見え、駅前の灯りは電車の終了と共に徐々に消え、夜に溶けていった。
●松本花奈プロフィール
1998年生まれ。映像監督。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』(16)、『キスカム!〜COME ON, KiSS ME AGAIN!〜』(4月3日公開)。ドラマ『僕だけが17歳の世界で』がAbemaTVで配信中。
文/松本花奈