【追悼】森田芳光監督の遺作に見る笑いの演出の粋とは?

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【追悼】森田芳光監督の遺作に見る笑いの演出の粋とは?

映画監督の森田芳光氏が、12月20日に急性肝不全で急逝した。感動ドラマからコメディ、サスペンス、時代劇まで幅広い作風で知られる森田監督は、『家族ゲーム』(83)、『失楽園』(97)が代表作に挙げられるが、『(ハル)』(96)や『わたし出すわ』(09)など、森田監督ならではの独創的なオリジナル企画もファンに愛された。遺作となった『僕達急行 A列車で行こう』(2012年3月24日公開)はまさにその一本だが、ここでは森田監督ならではの笑いの演出に着目したい。

松山ケンイチ、瑛太のW主演作『僕達急行 A列車で行こう』は、監督が10数年間温めて、ようやく実現した企画である。鉄道マニアのふたりの青年の友情と恋の奮闘を、森田監督ならではの心地良いテンポでユーモラスに描き出す。松山と瑛太は見事にイケてるオーラを封印し、今を生きるリアルな草食系男子に扮した。「一番の売りはコメディ」と語っていた森田監督。マニアックな鉄ちゃんの会話をはじめ、不器用で素朴なふたりのキャラクターが緩い笑いを誘い、見ているといつしか心をもみほぐされていくような感覚に陥る。

森田監督は以前、笑いの演出について「人間が出ていれば、それだけで笑える」と語っていた。脚本も手掛ける森田監督は、人間の観察力に長けている人だった。「駅で向こう側のホームを観察すると、普通の人がみんな面白い。ギャグではなく、人間そのもので笑いをとる。僕はそういう信念でやっている」というのは森田監督らしい弁だ。

たとえば、豊川悦司主演作『サウスバウンド』(07)では、ぷぷっと笑えるシーンがたくさんあるが、監督が脚本の時点で笑いを狙ったのは、豊川扮する上原一郎が、子供たちに向かって桂三枝ばりに「いらっしゃ~い」というシーンだけだったそうだ。「あそこで笑わない人がいても良くて。逆に笑いの外し方を指示したくらいです」とのこと。「僕の映画は、人間そのものが面白いだけ。自分自身、コメディの演出が上手いとも思ってないし。でも、人間を正確に映し出すことに関しては自信があります」。

本作でも、鉄ちゃんのふたりがそれぞれ自分なりに仕事や恋に迷走する姿は、時に健気で時に滑稽だが、だからこそ誰もが共感し、応援したくなる。松山は森田監督の映画について「監督独特のセリフ回しや笑い、思わずニヤリとしてしまうキャラクターに、いつも暖かい気持ちと前向きな気持ちをいただいていました」と語っていたが、本作もしかり。見終わった後、爽やかな希望が心の中を駆け巡るのだ。その作風こそ森田演出の粋ではないか。森田芳光監督最後のオリジナル作品『僕達急行 A列車で行こう』は是非とも劇場でどうぞ。【文/山崎伸子】

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