衝撃作『トガニ』の監督が激白「製作中、一生分のストレスを全部受けた」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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インタビュー 2012/8/2 16:58

衝撃作『トガニ』の監督が激白「製作中、一生分のストレスを全部受けた」

映画が世論を動かした!その映画とは、幼い聴覚障害者への性暴行という卑劣な犯罪を斬った衝撃作『トガニ 幼き瞳の告発』(8月4日公開)のことだ。事件をモチーフにしたコン・ジヨンの原作小説を映像化したのは、『マイファーザー』(07)などの社会派作品で知られるファン・ドンヒョク監督。来日した監督が、「映画化しなければ、この事件は永遠に葬り去られると思った」と、本作に懸けた思いや撮影苦労話をインタビューで明かしてくれた。

聴覚障害者学校で、校長と、双子の兄弟である行政室長のふたりが、幼い生徒に性的暴行を行う。“トガニ”とは、直訳すると“るつぼ”、すなわち高温処理を行う耐熱式の容器のこと。社会的弱者が、出口のない劣悪な環境で、悲痛な叫びを上げるという惨状は、まさに『トガニ』である。ドンヒョク監督に、映画化した動機から聞いてみた。「原作はあまりにも苦しい内容で、読み切るのに一週間以上もかかりました。実話だけにショックを受けましたが、最初は正直、映画化する自信がなくて。でも、事件がつい5、6年前に起きたもので、未だに何の解決もされていないことを知り、映画化して、もう一回この事件を世に知らしめること自体に意義があると思いました」。

とはいえ、プレッシャーは相当のものだった。「何が何でも映画を成功させたかったです。そうしなければ、事件が闇に葬られるし、映画自体のレベルが低ければ、『あの監督はこの事件をただ商業的に利用したかっただけ』という批判を浴びることになります。すごいプレッシャーだったし、二度とは作れないと思います。映画が公開するまで、一生分のストレスを全部受けたんじゃないかと思ったくらいです。毎日、煙草を3箱吸い、体重も5、6kg減りました」。

事件を訴える主人公の教師役カン・イノを演じるのは「コーヒープリンス1号店」のコン・ユ。熱のこもった演技が印象的だが、子役たちの熱演も出色だ。トラウマになりそうな性的暴行や激しい虐待のシーンも登場するが、その演出には監督による細やかな配慮がなされていた。「激しい場面での感情については一切説明をせず、動きだけを指示する演出に徹しました。たとえば、トイレに押し込められ、校長から暴行を受けるシーンでは、『このおじさんが今から君の腕をぎゅっと握るから、あなたは力の限り叫び、体をバタバタさせてね』とお願いする感じです。現場には常に子役たちの親御さんに一緒にいてもらいましたし、なるべく役柄に感情移入しないよう、休憩時間は一緒に遊んだりもしました」。

本作は、昨年9月に韓国で公開され、460万人以上もの観客を動員、社会現象を巻き起こした。ただ、反響が大きかった分、思わぬトラブルにも見舞われた。「劇中に、ムジン(霧津)教会というのが登場します。ムジンは架空の地名ですが、事件が起きた町の映画館のすぐ側に、たまたま同名の教会があったんです。そのため、劇場を出た観客が『ここだ!』と勘違いし、大騒動になりました。牧師さんからも苦情が入り、結局『事件とは無関係です』という訂正の記事を出すことになりました」。

実際に世論が動き、結果的には法改正もされ、「トガニ法」が成立、さらにモデルとなった加害者には、7月5日、裁判所から懲役12年の実刑判決が下された。この映画があったからこそ勝ち取れた判決ともいえよう。ドンヒョク監督自身も「最初は、予想を遥かに上回る反響だったので驚き、戸惑いも感じました。そして、あまりにも短期間でわっと沸いた現象だったので、それが単なる一過性のもので終わるんじゃないかと不安になったんです。その後、時間を経て、法が改正されたり、加害者に処罰が下されたりして、ようやく安堵感を覚えました。本当に苦しかったけど、やって良かったです」。

劇中の法廷シーンの傍聴席には、プロの役者ではなく、本当の聴覚障害者も出演しているのもドンヒョク監督が意図した演出だ。なかには偶然だが事件のあった学校の出身者もいて、絞り出すような抗議の叫びを上げている。本作は、監督やスタッフ、キャストだけではなく、事件を訴えたかった全ての人々の思いの結晶であり、だからこそ人の心を動かせる武器になりえたのだと思う。【取材・文/山崎伸子】

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