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ベルリン金熊賞作『塀の中のジュリアス・シーザー』の兄弟監督がニューヨーク映画祭で熱弁!

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ベルリン金熊賞作『塀の中のジュリアス・シーザー』の兄弟監督がニューヨーク映画祭で熱弁!

第62回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した『塀の中のジュリアス・シーザー』(2013年1月26日公開)をひっさげ、イタリア人監督で脚本家のパオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督が第50回ニューヨーク映画祭に登壇した。

御年80歳と83歳とは思えないパワフルでお洒落な兄弟監督が、第85回アカデミー外国語映画賞の正式候補作かつ有力候補となっている同作について、熱い思いを語った。

同作は、シェイクスピア劇「ジュリアス・シーザー」を演じるローマの重警備刑務所レビッビアの受刑者たちの、6ヶ月前のリハーサルから本番までを描いた半ドキュメンタリータッチの映画だ。圧巻の演技を見せる出演者たちは、ほぼ全員が受刑者たちで、シーザーなど主役を演じた3人は、既に服役を終えて俳優や脚本家としての道を歩んでいるというから何とも驚きだ。

「ローマでは重警備刑務所の受刑者たちが、年に一回、劇場で芝居をやっているというのは本当の話なんです。私たちはその劇場に出向いて芝居を見たのですが、その場で『これを映画にしなくてはいけない』と思ったんです。そこに至るまでの経緯もさることながら、終身刑などで一生刑務所を出ることができない運命にある人たちが、そこで芝居をする。そしてそれを見に来る家族との関わりやドラマも垣間見ることができた時、ある種の運命を感じた」という。

「刑務所にいる人たちがリアリティあふれる演技ができるのは、実際に重警備刑務所にはプリズンカンパニーというのがあるからで、そこで演技を学んでいる人や、脚本などを書いている人たちもいます。しかし、それ以上に彼らが見るものを惹き付けるのは、芝居の中に人間の本質がにじみ出ているからでしょう。ありがたいことに、シェイクスピアは500年以上も前から、現代人がたどる運命が既にわかっていたんです。なかでも『ジュリアス・シーザー』を選んだのは、シーザー、ブルータスたちが繰り広げる友情、憎悪、暴力、裏切りといった全ての要素は時代を問わず、我々人間が持ちあわせているものであり、受刑者たちの本質をえぐり出し、また昇華させるに一番ふさわしいテーマだと思ったからです」。

「私たちの家の近くには、比較的刑の軽い、短期間の服役者が滞在する刑務所がありますが、そこからはサッカーゲームや映画を楽しむ様子や声、音が聞こえてきて、生命を感じることができます。でも、実際に15年から終身刑に処された受刑者のいる重警備刑務所に出向いてみると、半開きのドアから見えたのは、老いも若きも、ただベッドに横たわってじっとしている人たちの姿でした。静まり返っていて、全く生命が感じられなかったんです。音楽を担当した息子も、刑務所に行く前に既にテーマとなるスコアを作っていたのですが、訪問後に『アイデンティティーを失った気がする』と言って、完全に音楽を作り直したくらい、ものすごい衝撃を受けていました。刑務所、そこはまさにメランコリーの世界。サックスフォンの音色はその象徴です」と、ディテールにこだわったヴィットリオが嬉しそうに語った。

カラーとモノクロの世界が織り成す世界については、「芝居をしているシーンがカラーなのは、彼らにとってこれは非現実の世界だからです。芝居をしている時だけ、彼らの人生は彩られていますが、それが終わればモノクロの現実に帰るんです。演じるという楽しみや生き甲斐を知り、全力を尽くしている受刑者たちは一見幸せに見えますが、喜びを知ってしまった後の喪失感は絶大で、檻房が本当の地獄になるんです。私たちにとって、アートはこのうえない贈り物ですが、痛みも伴います。そして、それを失った時の悲劇は想像を絶するものだと思う」と、アートを追求し続ける自らの姿と重ね合わせて説明してくれた重鎮タヴィアーニ兄弟。

研ぎ澄まされた感性は80歳を越えても健在で、これからも兄弟で素晴らしい作品を作り続けてもらいたいものだ。また初のアカデミー外国語映画賞獲得となるか、2013年2月24日(日)に開催される授賞式が今から楽しみだ。【取材・文 NY在住/JUNKO】

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