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名作はキャスティングが命!ジョン・ヴォイト、アル・パチーノ、メリル・ストリープらを見出した凄腕に迫る

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名作はキャスティングが命!ジョン・ヴォイト、アル・パチーノ、メリル・ストリープらを見出した凄腕に迫る

名作は優れた脚本と監督、そしてキャスト、スタッフがそろって初めて成り立つが、その影には必ず有能なキャスティングディレクターがついている、ということを知る人は少ないだろう。

日陰の存在でありながら、1960年代から1980年代ぐらいまで、男社会だった映画界にあって、未来の名優たちを次々に発掘することに成功した女性キャスティングディレクター、マリオン・ドハティーの活躍を描いたドキュメンタリー映画『Casting By』が第50回ニューヨーク映画祭で上映され、トム・ドナヒュー監督が登壇した。

「同業者の知り合いのふたりともが、マリオンから大きな影響を受けていることを知って、キャスティングディレクターの存在に興味を持つようになったんだ。2010年からマリオンにインタビューを始め、そのつてを通して250人くらいの関係者や監督、俳優たちから話を聞くことができた。1年半くらいかかってしまい、彼女は残念ながら今年、癌に倒れてしまったが、素晴らしい経験だった」とトム監督は目を輝かせる。

長さの関係上、多くのインタビューをカットすることになったそうだが、クリント・イーストウッド、ジョン・ヴォイト、ロバード・デ・ニーロ、ロバード・デュバル、ベッド・ミドラー、ロバート・レッドフォード、ジェフ・ブリッジスなど、そうそうたる名優たちがインタビューの中でマリオンに感謝の意を表すると共に、その功績を称えており、ストーリーが展開するにつれて、キャスティングディレクターの威力を知ることになる。

かつて、リストアップされた中から主演俳優や女優が選ばれていた時代は、エージェントの力が強かったが、その後、その作品に合った適役を選ぶ手腕が問われるようになってきた。そんななかで、ステレオタイプのキャスティングに辟易したマリオンは、大スターではなく、その役に適したバラエティーに富んだ役者が必要だと考えたという。

マリオンは、オフブロードウェイで活躍していたアル・パチーノをはじめ、ウォーレン・ベイティ、ジーン・ハックマンやダスティン・ホフマン、クリストファー・ウォーケンらを発掘した。また、美貌先行だった映画女優を、個性派と実力派に広げたのもマリオンで、メリル・ストリープをはじめ、グレン・クローズ、ベッド・ミドラーなどは、マリオンの存在なしには、映画界に存在しなかったと言っても過言ではないことがわかる。

たとえば、かの有名な『卒業』(67)の主役は、当初、プロデューサーから「キャンディス・バーゲンとレッドフォード」と言われ、マイク・ニコルズ監督はリチャード・ドレイファスを考えていたそうだが、マリオンが「金髪の美しすぎるふたりでは、現実味がなさすぎる」と却下した。今までの映画スターとしてはありえなかったユダヤ人で背の低いダスティン・ホフマンを起用。アン・バンクラフトという男女の相性まで考えたキャスティングは、何か新しいものを求めていた観客のニーズに見事マッチし、大成功を収めたのだ。

また、マリオンから過去に人気テレビシリーズのオファーを受けたものの、自分に合わないために断ったジョン・ヴォイトが、第42回アカデミー作品賞受賞作で、自身も助演男優賞ノミネートの『真夜中のカーボーイ』(69)のオファーを受けた際、「折角の好意を断ったのに、またオファーをもらえるとは思わなかった」と、謝罪と感謝の気持ちを綴った6枚の手紙を書いてマリオンに送ったことを告白するなど、「マリオンなくして名優なし」と言えるほどの功績をあげていたことが明らかになる。

当初は白人どうしという設定だった『リーサル・ウェポン』(87)シリーズで、メル・ギブソンの相棒警官として黒人のダニー・グローヴァーを推したのもマリオンだったそうだが、それにも関わらず、アカデミー賞には最優秀キャスティングディレクターを評する部門が見つからない。

何度も同部門を作ろうとする動きがあったにもかかわらず、未だに米監督組合賞のメンバーから、強烈な反対意見があるという。『愛と青春の旅立ち』(82)、『Ray レイ』(04)の監督でヘレン・ミレンの夫でもあるテイラー・ハックフォード監督はインタビューの中で、「ディレクターという名のつく人は、映画の中で一人しか存在しない」と言い切っており、厳しい現実が突きつけられる。

作品の中では、マリオンの力を評価する一方で、影響力が強烈になりすぎたことで解雇するスタジオや、テイラー監督の上記のような発言など、映画界の知られざる裏舞台を、今までにない視点から見ることができる。また、今日の多くのアカデミー俳優たちが生まれるまでを知ると、さらに映画鑑賞が楽しくなることは間違いない。映画ファンにとってまさに必見の一作だ。【取材・文 NY在住/JUNKO】

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