草刈民代が語る周防正行監督とは?「お互いを活かし合うために一緒になった」
女優・草刈民代の真価が問われる勝負作となった『終の信託(ついのしんたく)』(10月27日公開)。共演に役所広司、メガホンを取ったのがパートナーの周防正行監督と、『Shall we ダンス?』(96)の黄金トリオは、やはり最強だった。バレリーナから転身し、女優道を力強く闊歩している草刈民代にインタビュー。本作のヒロインに彼女を選んだのはもちろん周防監督だが、「家の旦那さんは、本当に映画にしがいのある素材と巡り合いました」と話す草刈の柔和な表情が印象的だった。
草刈扮する呼吸器内科医の折井綾乃は、同僚の医師との不倫に傷つくなかで、自分が担当するぜんそくの患者・江木秦三(役所広司)と心を通わせていく。やがて江木は、人生の最後の願いを綾乃に託すが、それが原因で彼女は殺人罪に問われてしまう。草刈は演じた綾乃役をこう読み解いた。「ふたりの関係性については、理屈ではなく、本当は縁以上のものでしか語れないものだと考えています。誰もが一生の内に数回、縁ってこういうものかと感じる経験があると思う。まさにそういう関係性なのではないかと」。
それを言うなら、彼女が周防監督のパートナーになったことも間違いなく縁の成せる技ではないか。「もちろん、旦那さんとは縁を感じます」という草刈。周防監督を「旦那さん」と呼ぶところが、草刈らしくて好感が持てる。「『Shall we ダンス?』の完成披露試写会が終わった1ヶ月後に結婚することになったので、何だか結婚するために映画に出たのかな?って感じじゃないですか。映画も大ヒットしちゃったし。何となく、お互いを活かし合うために一緒になった気がします。私も彼から影響を受けたけど、彼も私が踊っていた時からずっと見続け、私の周りの人から刺激を受けたことで色々と広がりを持てたと思うんです。お互いに必要としてたからこそ、一緒になったのかなって思います」。
とはいえ、今回の綾乃役はかなり精神的に自分を追い込むという難役だったため、周防監督と距離を置きたいと思った日があったと話す。「それは、取り調べのシーンを撮影した時のことです。でも、地方ロケもスタッフとキャストの宿泊場所が別々だったので、撮影現場以外では一緒に過ごしていません。取り調べのシーンは最後に東京のスタジオでの撮影でしたが、その間の4日間は近くのホテルに泊まりました。緊張感って崩れてしまう時は簡単に崩れてしまうんです。それが怖かったのでね」。
『Shall we ダンス?』の時とは違い、本作は女優・草刈民代としての主演映画第一作目ということで、ふたりの向き合い方は違ったのだろうか?「結婚して 17年も経っているし、その間の蓄積は役柄に全て投影されていると思います。家の旦那さんも、今でなければこういう作品は撮れなかったでしょうね。この作品からは彼の円熟味を感じます」。
本作で確固たる手応えを感じた様子の草刈だが、今後の女優としての展望についても聞いてみた。「この映画も、今放映しているドラマ『眠れる森の熟女』も、いろんなことを感じてもらえるような作品ではないかと思うんです。やっぱり、観た方にリアルだと感じていただけることは大事なことだと思います。私はそれを目指したい。踊りも消耗しますが、芝居もすごく消耗しますね。だからこそ、これは面白いとか、元気づけられるとか、考えさせられるとか、観た方のそういう話を聞くと、消耗した甲斐があるなって思います。今後も人の心を動かせる作品に関わっていきたいです」。
互いの良さを引き出し合える草刈民代と周防監督は、まさに理想的なベストパートナーだ。そして、ふたりのタッグ作『終の信託』は、これから長く続いていく女優・草刈民代のヒストリーにおいても大切な作品となったに違いない。【取材・文/山崎伸子】