『ホビット』ピーター・ジャクソン監督がホビットにほれ込む理由とは?
J.R.R.トールキン原作の『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに続き、その前日譚を描く映画三部作のメガホンを取ったピーター・ジャクソン監督。新シリーズの第一弾『ホビット 思いがけない冒険』(12月14日公開)のキャンペーンで来日した監督にインタビューし、撮影秘話と、ホビットに対する並々ならぬ愛情について聞いた。
本作の主人公は、『ロード・オブ・ザ・リング』の主人公フロドの養父ビルボ・バギンズだ。彼は魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)や13人のドワーフたちと共に、恐ろしいドラゴンのスマウグに奪われたドワーフ王国を取り戻すための冒険に出かける。ビルボ役を演じたのは、海外ドラマ「SHERLOCK」のジョン・ワトソン役でも人気のマーティン・フリーマンだ。
ジャクソン監督は「『ホビット』にとってマーティンは必要不可欠な存在で、彼にしか演じられないと思っていた」と話す。「『ホビット』の実質の撮影期間は、『ロード・オブ・ザ・リング』と同じ266日間だ。ただし、『ホビット』の場合、 マーティンは撮影の合間の2ヶ月間、イギリスで『SHERLOCK』を撮るために、いったんニュージーランドを離れなければいけなかった。でも、すでに6ヶ月間撮影した後だったので、スタッフたちは休みを取って充電できたし、僕はかなり編集ができたから助かった。最初は、マーティンがスケジュール的に無理だと言っていたのだけど、そういう契約にして、彼が合わせてくれたから良かったよ」。
本作で、ビルボたちの行く手に待ちかまえているのは、ゴブリンやオーク、ワーグといった恐ろしいクリーチャーたちだ。ジャクソン監督のお気に入りは、ゴブリンたちとのシーンだ。「映画を撮る場合、自分の想像の中では常に完璧なものを描くけど、実際の撮影では妥協がつきものなんだ。でも今回、ゴブリンのトンネルから、ドワーフたちが逃げていくシーンは、想像していたよりも良い仕上がりになったよ。クリーチャーができ上がっていったり、環境が整い、デジタル処理をしていくうちに、どんどん進化させていくことができたから。実はできあがる一週間前まで改善していたんだ」。
『ホビット』の撮影は「僕の映画人生の中で一番楽しい経験だった」と語る。「特に楽しく撮影ができたのは、ビルボとゴラム(アンディ・サーキス)がなぞなぞの掛け合いをするシーンだ。あのシーンは18ヶ月の撮影期間で一番最初の週に撮ったんだけど、現場の足場固めをしたシーンでもある。脚本にして12ページ、約9分くらいの長いシーンを、まるでふたり芝居をするように、全部長回しでやってもらったんだ。それをいろんなカメラアングルで何度もやったので、俳優としてもすごく楽しみを感じ取ってくれたと思う。難しかったのは、狼のようなワーグにドワーフたちが追いかけられるシーンだ。真夏の撮影なのに、衣装が重いし、メイクとかも色々やっているから、1、2テイクするだけで、みんなが疲れて倒れ込んでしまうので、すごく時間がかかったよ。僕はTシャツと短パンという涼しい格好だから良かったんだけどね(笑)」。
最後に、ホビット族の魅力を監督に語ってもらった。「僕はホビットが大好きなんだ。彼らがとても良い主人公になりえるのは、誰もが最も思いつかないヒーローだからだ。彼らは戦士でもないし、戦い方も知らない。冒険も好きじゃないし、家にいて、暖炉の前で本でも読んでいる方がずっと好きなんだ。だからこそ、誰もがホビットの気持ちに共感できるし、そこが映画の魅力にもなっている。また、彼らが危険な旅をすることにより、キャラクターたちがだんだん成長する姿を見せることができる。今回もビルボは最初、いやいや参加したけど、その後で旅の大切さや意味がだんだんわかってきて、勇気や自信をつけ、戦い方も学んでいく。私たちもホビットの気持ちになって一緒に旅ができるんだ」。
最新鋭のHFR 3D(1秒間48コマのハイフレームレート)を採用した映像で、愉快でドラマティックな冒険へ誘ってくれる『ホビット 思いがけない冒険』。壮大な中つ国の世界観はもちろん、ビルボたちの個性あふれるキャラクターたちが織りなす友情、葛藤、家族愛などが描かれた人間ドラマも見応え十分だ。ピーター・ジャクソン監督が言うように、この冬は、心優しく楽しいホビットと共に、是非心躍る冒険へ繰り出そう。【取材・文/山崎伸子】