『Her』のホアキン・フェニックス、一人芝居で今度こそオスカー受賞か?
スパイク・ジョーンズ監督の4年ぶりとなる長編最新作『Her』(全米12月18日公開)が、第51回ニューヨーク映画祭のクロージング作品として上映。スパイク・ジョーンズ監督、主演のホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリヴィア・ワイルドという豪華キャストが記者会見に応じた。
同映画祭でも上映されたジェームズ・グレイ監督の『The Immigrant』の会見では、全く記者の質問にまじめに答えず、しらけムードだったホアキン。今回は打って変わって、会見中に「頑張ってるね」と司会者の肩をたたいたり、ジョーンズ監督に「なかなかいい答えだ」なとど突っ込んで、ノリノリモードだった。
人工知能という実在しない相手との会話だけのセオドア役を演じたホアキン。役作りについて問われると、「まず、来てくれてありがとうね」と笑いながら前ふりをした後、「もちろんたくさん練習はしたから、大変なことだったよ。だけど俺は俳優だから、家の中を歩きながら一人でぶつぶつセリフを言うのには慣れっこなんだ。それと似てなくもないからさ」と貧乏ゆすりをしながらも、珍しく(?)まともに回答した。友人などに囲まれながら究極に孤独な人物でもあるセオドアを見事に演じきった点について問われると、にやにやしながら、「セオドアの孤独を甘く見ていて、最初の数週間はことごとくスパイクに打ちのめされたからじゃないかな」とジョークをかましてみせ、ジョーンズ監督が、「それって、冗談だよね?」と心配そうに質問すると、「冗談だよ。それよりさ、こんな美しい女性たちが3人もいるんだから、彼女たちにしゃべらせてあげようよ」と、何気なく女優たちへの気遣いをのぞかせた。
続いて、サマンサをアバターや肉体を持たない無形のOSにしたことについて問われたジョーンズ監督も、ホアキンの影響を受けてかノリノリな様子で、「みんな大学を出ているんだから、君たちが答えてよ。そうそう、ルーニーは間違いなく大学でてるよね」と女優たちに話を振る場面も。最年少のルーニーがもじもじしていると、すかさずホアキンが、「本音を言っちゃえよ。かわいそうに、緊張しちゃって」と今度はルーニーを茶化したが、赤面しながらもルーニーは、「私は、大学が好きじゃなかったわ」と答え、ホアキンに応戦した。
ジョーンズ監督が「彼女を実際に見せないほうが、セオドアの魂や心の中でどんどん彼女のイメージが膨らんでいくと思った」と答えると、オリヴィアが、「ちょっと補足するわね。私はスパイクの選択に賛成なんだけど、声だけの方が自分でどんどん理想のイメージを作り上げることができるし、実際に経験しているように感じられるの。仮にスカーレット・ヨハンソンの声に慣れ親しんでいて、女優としての彼女をイメージしたとしても、誰もが自分の理想のサマンサを頭の中で創造しているはずよ。でも彼女の姿を見せて勝手なイメージを作り上げてしまうと、観客が彼女の像を作り上げることをも妨げてしまう。実在しないことによって効果が生まれるの」と語った後、両手を挙げて「イエーイ!大学は出てないけど、私が答えたわ」と叫んで、会場を笑いの渦に巻き込んだ。
人間同士の、さらに人工知能と人間の親密な関係については、「人間同士でも、人との関わり方はそれぞれ違っているし、それが難しい理由も人それぞれよね。でも、例えばエイミーは、実はセオドアといるときが一番彼女らしくいられるのに、自分に正直にならないからその関係は見えてこないのよ」と語るエイミー。
ジョーンズ監督が、「サマンサは、生まれたてで不安も自分を疑うことも知らないし、自分のことを話すことにも躊躇がなかったが、セオドアとの関係の中で色んな感情を持ち始めると、だんだん自分を疑うようになって関係がおかしくなっていくんだ」と説明すると、またもやオリヴィアが「人工知能は、因習を持たないからピュアだけど、人間には色々な因習とか背負ってきたものや痛みがあるわ。私が演じたセオドアのブラインドデート相手は、まさにそういうものを背負っていて、彼はそういう人間臭い関係を受け入れることができなかったのね。サマンサにはそれがなかったから、人間と違ってロマンティックな関係になれるたのよ」と、ジョーンズ監督のビジョンを代弁した。
登場人物のそれぞれのキャラクターが細かく描かれている同作は、『ウディ・アレンの重罪と軽罪』(89)にインスパイアされているというが、そんなジョーンズ監督の明確なビジョンはしっかりとキャスト(特にオリヴィア)に伝わっていたようで、現場での楽しそうな雰囲気が伝わってくる記者会見だった。
今回の会見で不承不承ながらも役作りについて答えたホアキンだが、特に準備を必要としないのは、実力がある証拠でもある。『Her』では、一人芝居というだけではなく、これまで、『グラディエーター』(00)、『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』(05)、『ザ・マスター』(12)といった作品で、ひねくれて、癖のあるハードなキャラクターを演じることが多かったホアキンが、超ソフトな面を見せて新境地を開いており、アカデミー賞主演男優賞へのノミネートが確実視されている。小さい時は、「酔っぱらいのしわがれ声」といじめられていたというスカーレット・ヨハンソンのハスキーボイスとともに、切なくも恍惚のラブストーリーを味わいながら、賞レースの行方にも注目だ。【取材・文/NY在住JUNKO】