『魔女の宅急便』の原作者・角野栄子「キキの妹役で出演したかった」とおちゃめ発言
角野栄子の児童文学初の実写映画『魔女の宅急便』が、3月1日(土)にいよいよ公開となる。宮崎駿監督のアニメ版はもちろん、蜷川幸雄演出の舞台版も大いに話題となったが、待望の実写化について、原作者の角野先生はどんなふうにとらえているのだろう?先生にインタビューし、本作への思いを語ってもらった。
見知らぬ街へ修行にやってきた13歳の見習い魔女・キキ。彼女は、ホウキで空を飛ぶという特技を活かしたお届けもの屋“魔女の宅急便”を始め、町の人々と交流しながら成長していく。まずは、キキの誕生秘話から。「私はいつも、最初に面白い主人公、私が大好きになれる子を作り出すわけ。それがキキ。その子が歩き始める感じで、書き始めるの。家族構成や周りの細かい設定、物語の筋道は決めずにね。私の書き方は特殊かもしれない。もちろん、キキは先々で失敗をしたり、嫌な面も見せていくけど、基本的には私が愛せるキャラクターじゃないとダメ。それが一番ね」。
そこからキキの成長をずっと追っていったという角野先生。「主人公がぶれなければ、それだけで大丈夫。途中、作家のご都合主義で性格などを変えてしまっては駄目。そこからキキがどう動いていくかで、物語が進んでいく。だから終わりがどうなるのか、いつ終わるかなんて、書き始めた時にはわからないの。どうなのかしらって自分でも不安だけど。ただ、4分の3くらい書き上げると、だんだん見えてくるんです」。
キキの絵は、当時12歳だった角野先生の娘さんが描いたイラストからインスピレーションを受けたそうだ。キキについては「私であって私じゃない」と言う。「よく『キキはお嬢さんですか?』と聞かれるんですが、キキは娘でもないんです。キキは、私が若かったら、こういう出会いをして、こういう冒険をしてみたいと思うことを代わりにしてくれる人。だから書いている時は楽しいし、これまで楽しくないと思ったことはないんです」。
そして、待望の実写化が決まった。角野先生は「私はいろんなキキがいて良いと思っているの」と語る。「こうしてほしいとか、こういうのは嫌だとか、そういった思いはもちろん少しはありますよ。でも、そうじゃなくて、私の作品はあくまで原作だから、映画は清水さん、アニメ版は宮崎さん、舞台は蜷川さんの作品というふうに考えています。いろんなキキに出会えることが楽しい。私はキキを書いたけど、キキは私とも別人格だし、いろいろと違うところが面白いんです」。
つまり、あまり口出しはしないという方針なのか。「清水さんにお会いしたし、台本も読ませていただいたけど、お互いにあまり細かいお話はしない方が良いと思っていたんです。私がいろんなことを言って気にされたりして、自由をなくされると困るから。だから、通常、何も言いません」。
キキ役に抜擢された小芝風花については、太鼓判を押す。「オーディションに参加させていただいたけど、私も小芝さんが良いと思ったの。しっかりしていて、ふわふわっとした13歳ではなく、ちょっと何かありそうな感じがしました。初めてなのに、あれだけ素敵にやれたのは、やっぱり監督の力も大きかったんじゃないかしら。もちろん、彼女にもその土壌があったんでしょうけど、やっぱり合作なんじゃないかと思います」。
完成した映画を見た時、「ああ、キキはこういうふうに飛ぶんだなと、改めて実感できたわ」と言う角野先生。「人が飛ぶとこういう感じなのかなって。想像だけで書いているので、飛ぶ姿を見た時はちょっと面白かったです。また、キキととんぼとの絡みも、変にベタベタしてなくて良かったと思うわ」。
実は、角野先生は、本作のナレーションを手掛け、さらに1シーンに登場する。映画のセットに入ったのは初めてで感激したという角野先生は「あのセットはすごく良くできていたわ。本物のパンが置いてあるの」とうれしそうに話す。演じたのは、感じの悪い客の役だったので「あんな怖いおばあさんになるとは思わなかった。もっと良い人役で出たかったわ。私ね、キキの妹役で出たかったの。ふふふ。清水監督に言ったら却下でしょう(笑)」と、おちゃめに笑う。
最後に、これから『魔女の宅急便』を見る人へのメッセージをもらった。「どうか、一緒に飛んでください。そして飛んだら何が見えるか?それを楽しみにしてください。みなさんが、目に見えないエアホウキで飛んでるつもりで見ていただけたらうれしいです」。まさに、角野先生の言葉どおり、キキと一緒にホウキに乗って、スクリーンのなかの冒険を堪能してほしい。【取材・文/山崎伸子】