『銀の匙』ヒロインの広瀬アリス、19歳の素顔に迫る。「夢がない八軒くんと、自分は似ていた」

吸い込まれるような、真っ直ぐな瞳。コロコロとよく笑う愛らしさ。凛とした、仕事への姿勢。今、最も注目してほしい若手女優のひとりが広瀬アリスだ。3月7日より公開となる映画『銀の匙 Silver Spoon』では、主人公がほのかに恋心を寄せるヒロイン役に大抜擢。成長著しい、19歳の素顔。そして、わき上がる女優業への思いに迫った。

原作は、荒川弘による大人気コミック。北海道の農業高校を舞台に、将来に悩みながらも、仲間と絆を育み、成長していく学生たちの姿をユーモラスに描く。演じる御影アキ役は、実家が酪農家で、馬が大好きな馬術部所属の女の子。広瀬は「私は酪農の知識もまったくなかったし、アキと共通しているところといえば、明るくて元気なところくらい」と笑う。「アキは、馬に対して真っ直ぐな気持ちを持っていて、すごく芯が通っている女の子。魅力的だと思いました」。

「今回の映画を通して、女優・広瀬アリスとしても、一人の人間としても一回りもふた回りも大きくなった」と彼女。その最たるものが、「すべての物事に対して、しっかりと考えるようになったこと」だという。「今までは、色々な事件をニュースで見ても、正直、自分には無関係なこととして流して見ていたところがあったと思います。でも、この映画に関わってから、しっかりと自分のなかで考えてみるようになりました」。

その原因を辿ってみると、『銀の匙 Silver Spoon』の根底に流れる、「どんな出来事も、見過ごさない。逃げない」というテーマが大きく関わっている様子だ。主人公の八軒(中島健人)が、愛情を持って育ててきた食用豚の“命の選択”を迫られる一幕は、とりわけ印象的。映画では、食肉解体作業の現場に俳優とカメラを入れて、ドキュメンタリータッチで屠蓄シーンを描いている。

「豚に電気ショックを与えるところから、最初から最後まで見させてもらいました。やっぱりショッキングな光景ではあって、本番中にダウンしてしまうキャストもいて。そういうリアルな表情を長回しで撮影したので、これがあって、私たちはお肉を食べているんだという、“命をいただく”という感覚を初めて実感することができました。今までは、スーパーにあるお肉を買って、調理して、食べれなければ残すことも時々あって。そんな自分を思い出すと、鳥肌が立つくらいに、『なんて失礼なことをしていたんだ！』と考えさせられたんです」。

さらに「原作者の荒川先生とも色々お話させていただいたんですが、『漫画を描く時も一切、大げさに描いてはいないんだよ』とおっしゃっていたのが印象的」と述懐。八軒やアキの将来に対する悩みも、19歳の広瀬にとって、リアルなものだったという。「八軒くんが『僕には夢がない』って言うんですよね。私も高校2年生くらいまでは、この仕事が将来続けたいものだとはあまり思えなかったんです。中学3年生の頃からモデルをやって、それからドラマなどにも出させてもらっていたんですが、『他にやりたいことないかなぁ』と何かを探しているようなところもあって。八軒くんと似た感情だったんじゃないかと思います」。

素直に胸の内を明かしてくれたが、「今では、女優というお仕事が楽しくて仕方がない！」と目をキラキラと輝かせる。「今考えると、その頃って、台本を読んで、カメラの前で覚えたセリフを言うという、作業のようにお芝居をしていたんです。でも高校2年生の頃に半年くらい、お芝居から離れる機会があって。高校3年生の時に、久しぶりに連続ドラマで小さな役をいただいたら、まったくお芝居ができなくなってしまっていたんです。その日は号泣しながら家に帰ったのを、今でも覚えています」。

「なんで号泣しているんだろう？と考えた時に、『私はお芝居が大好きなんだ！』と気付いたんです」と広瀬。「それに私、ものすごい負けず嫌いで(笑)。悔しさもあって、『もっとお芝居ができるようになりたい』と心から思ったんです。それからは、台本の読み方も、お芝居に対する感覚も変わったと思います。私生活はどうでも良いから、とにかく役にどっぷりと浸りたいと思うようになりました」。

「今回は、どっぷりとアキに浸れる時間をもらえた」とニッコリ。「これからはどんどん演技の幅を広げていきたいです。これまで等身大の役をいただくことが多かったので、羽目を外すような役もやっていきたいです。超悪役とか、ぶっ飛んだコメディとか、広瀬アリスのイメージを壊すくらいの役をやってみたい。本番中に変顔をしちゃうとか(笑)！」。広瀬アリスが、その真っ直ぐな瞳で見つめる先には一体、何が待っているのか。楽しみで仕方がない。【取材・文/成田おり枝】