永瀬正敏、役者人生で「肩の力が抜けた瞬間」とは?

インタビュー

永瀬正敏、役者人生で「肩の力が抜けた瞬間」とは?

ジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』(89)で国内外から注目を集めたのは、永瀬正敏が23歳のとき。今、48歳となり、台湾のスタッフ・キャストとタッグを組んだ映画『KANO ~1931海の向こうの甲子園~』が1月24日(土)より公開となる。永瀬が海外作品で受ける刺激とはどんなものなのか。

『セデック・バレ』(13)を監督したウェイ・ダーションがプロデュースを務め、マー・ジーシアン監督の長編デビュー作となる本作。日本統治時代の台湾から甲子園に出場し、決勝まで進んだ「嘉義農林学校野球部」の実話を描く感動の物語だ。永瀬は「コラボレーションをして映画をつくっている感じがした」と述懐。演じた野球部の近藤兵太郎監督には、「優しいけれど、それをなかなか表現できない無骨さがある。おじいちゃんたちを見ると、日本男児の無骨さを思い出しますね」というが、そういった日本に関する疑問・質問もウェイ氏、マー監督ともにオープンに永瀬に相談してきたとか。

「監督やプロデューサーは、『この脚本をそのままやってくれ』と言ってもいいはずなんです。でもウェイプロデューサーもマー監督も懐広く、『僕たちにはちょっとわからないんだけど』と問いかけをたくさんしてくれるチームでした。すると僕も『たぶん、こうだったんじゃないか』と言えますよね。それは本当にありがたかったです」と本作のチームワークに感謝しきり。

2013年に役者人生30周年を迎えたが、「昔は一人で攻めていこうと思っていたんだけれど、今は全然、逆。スクラムを組んで作品に向かいたい」と心境の変化もあったそう。その変化には、海外作品で受けた刺激も影響しているようで、「若い頃に海外作品にたくさん出させてもらって、『ああ、日本も海外も違わないや』って気付かされたんです。そう思わせてくれるような人達、良い現場に出会ったんですね」と告白。「交わす言葉は違うけれど、映画をつくるという共通言語を僕らは持っているんだなって。『何も変わんねえや』って思わせてくれる現場にいっぱい出会えた。すると、ふっと肩の力も抜けたし、逆に日本映画を世界の人にももっと見てもらいたいと思うようにもなりました」。

さらに「今回『KANO』に参加させていただいて大作映画、大エンターテイメントの醍醐味を再び感じて、それはすごく刺激になりました。またそういう現場に出会えると良いですね」と充実感をにじませる。「でも世の中が大作ばかりになっても、はじめっから大作映画を撮れる監督はそうそういません。だから小粒でもキリリっとスパイスが利いた作品にもこれからも参加していきたいです。映画は、ハリウッド超大作映画でも手弁当で作られたものでも、映画は映画。変わらないですから。ましてやお客さんにはそこは関係ない。日本では同じ料金で見ていただくわけですから、どちらも手を抜くことは許されない。今はなかなか小規模から中規模の間くらいな作品が成立しにくい感じになっているような気がします。でも僕らの先輩がつくってきた日本映画の伝統や、作家性の強い作品みたいなものも大事にしなければ。僕らの世代でそういうものが消えてしまってはダメだなと思っていて」。

映画への愛情が溢れ出すが、「これからは、海外のすごい役者さんや女優さんが、日本の若手監督の映画に出演するような世の中になると思いますよ。それくらい、日本映画やアジア映画はすごい。誇りを持っていいと思います。そうしたら僕も、(ロバート)デ・ニーロとか日本映画で共演したいですね。(デニス)ホッパーともやりたかったけれど」と日本映画の未来を見つめ、穏やかに笑う。

バジェットの大小に関わらず、“自分の心を揺さぶる”ことを出演の動機にしてきた。男らしく突き進む永瀬正敏のこれからが楽しみで仕方ないが、まずはスタッフ、キャストと熱い絆を育んだ『KANO ~1931海の向こうの甲子園~』で、彼の魅力を再確認してほしい。【取材・文/成田おり枝】

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