“平均年齢73歳の現場”を北野武と藤竜也が語る!

インタビュー

“平均年齢73歳の現場”を北野武と藤竜也が語る!

北野武の監督17作目となる『龍三と七人の子分たち』。なんと主演の藤竜也を含め、タイトルロールを演じた8人の平均年齢は73歳と来た!みなさん、かくしゃくとしたいぶし銀俳優たちで、かなりやんちゃな役どころを好演している。北野監督と藤にインタビューし、気になる撮影秘話について聞いてみた。

藤が演じる主人公は、その昔“鬼の龍三”という異名をとった強面の元組長だ。龍三はある時、若者たちの詐欺集団によるオレオレ詐欺にひっかかりそうになるが、やがてそのことに気づき、七人の子分たちと、彼らに一矢を報いようとする。

藤は、龍三親分役で、貫禄たっぷりの凄味をきかせながらも、おちゃめな一面も覗かせている。特に、近藤正臣演じる子分のマサと、そば屋で賭けをするシーンの軽妙な会話劇が最高だ。北野監督は「客観的に見るとコントなんだ。でも、ご本人たちには『一生懸命、賭け事をやってください』とだけ言ってある。それがめちゃくちゃマヌケで、映像で見るとすごく笑えるんだよ」とうれしそうに語る。

藤は、近藤とは気心が知れた仲だと言う。「でも、『もう1回!』なんて言ったら失礼だからと思って、けっこう気を張ってやっていました。でも、わけがわからないけど、本当に若い者をぶん殴りたくなっていきました(笑)。ものすごいテンションが上がったんです」。

2人のやりとりがなんとも可笑しいが、北野監督によると、初期の脚本には、他のネタも書かれていたそうだ。「いっぱい削ったんだよ。たとえば犬が来て、オスかメスかを当てるってことで、タマのあるなしを確認するとか。でも、最近、野良犬ってあんまりいないし、散歩している犬を押さえつけるのも動物愛護協会に怒られるなあと。他にも、歩いてくる女の人の年を当てるとか。身分証明書を見せろというのもちょっとね(苦笑)。それで、そば屋の話を何個か重ねることにした」。

それにしても、高齢のベテラン俳優陣の現場とは、どういうものだったのか。北野監督は「役者さんたちは、すごい経歴の人ばかり」とリスペクトしつつ「でも、脳と肉体の衰えはちょっとだけ出る時があるんです。おいらもそうだけど、あるセリフだけが引っかかったり、出ないことがある」とのこと。

そういう時には、カンペを作ったりしたそうだ。「そしたら、字が読めないと言われて困っちゃって(苦笑)。だんだん字がでかくなっていったら、今度はそれを読むから、目が泳ぎ出しちゃって、寄りの画が撮れなくなっちゃった。また、用意スタートが聞こえない役者さんもいたりした。芝居をやりだしたら上手いんだけど、肉体的なものはしょうがないね」。

藤は、同世代の現場で、それぞれがライバル意識は持っていたと振り返る。「いつも緊張感はありました。みんな一生懸命やるので、ギラギラしていたんです。もちろん、たまにはくだらない話をしたりもしていましたが、みんな猟犬みたいな感じでした」。

北野監督も「メンバーが揃うと、みんな役者根性が出てくるからね。負けたくないという思いはあったんだろうな」とうなずく。「面白かったのが、補聴器をつけている1人が、『実は僕、これをつけているんです』と外してテーブルに置いたら、もう1人が『僕もです』と言って、同じく補聴器を置いたこと。2人とも置くから、お互いの声が聞こえなくて、話にならなかったこともあったみたい(笑)」。

そんなベテラン俳優陣だが、クライマックスでは、ダイナミックなカーチェイスシーンにトライした。北野監督は「CGは、張り出したカメラを消したぐらいで、他は一切使ってない。あのシーンでは、龍三と子分たちはあまり映らないから、乗らなくてもいいのにみんながバスに乗っちゃった。でも、スタントマンは、腕の見せどころだからガンガンやる。みんなふらふらになってたよ」と苦笑い。

藤も「現場はすごい迫力がありました」と興奮気味に語る。「狭いところを壊しながら撮っていくんです。モンスターみたいなものですよ。ああ、北野組をやっているんだというワクワク感があって、みんながエキサイトしていました。けっこうすごかったけど、内心、はしゃいでいたんです」。実際、このシーンは、緊迫感あふれるド迫力の見せ場となった。

北野組で個性を炸裂させた藤竜也らツワモノたち。悪事を働く若者たちをこらしめようとするパワフルなジジイたちを見れば、なんだかパワーをもらえそう。GWはそんなジジイたちの武勇伝を見に、是非劇場へ!【取材・文/山崎伸子】

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