押井守、『パト2』続編を実写で撮る理由とは?

インタビュー

押井守、『パト2』続編を実写で撮る理由とは?

押井守が総監督として指揮をとり、伝説的アニメ『機動警察パトレイバー』の実写化プロジェクト『THE NEXT GENERATION パトレイバー』が実現。

長編劇場版となる『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 』(5月1日公開)では、ファンの間でも傑作と名高いアニメ映画『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の後日談が明らかにされている。

『パト2』と地続きとなる世界を描く上で、押井監督がアニメではなく実写という手法をとったのはなぜなのか?出演の筧利夫、真野恵里菜とともに本作に込めた思いを聞いた。

本作の冒頭で映し出されるのは、平凡な日常を切り裂き、突然の攻撃に真っ二つになるレインボーブリッジ。テロと思われる爆破事件に日本中が騒然となるが、事件の背後には、過去に首都を舞台に“幻のクーデター”を繰り広げて収監中の元自衛官・柘植行人の教え子たちが組織されていた。

この“幻のクーデター”を描いた作品こそ『パト2』だが、押井監督は「今回の題材は、僕が選んだわけじゃない。もともと、パト2の延長線上でやってほしいという話だった」と、『パト2』のその後をテーマに選んだのは「自身ではない」と告白する。

「自分なりのテーマを見つけるのに時間がかかった」と押井監督。「『パト2』当時とは時代が変わっているので、あの通りにはできない。今の日本ではクーデターなんてリアリティがないからね。コンセプト自体を考えなおすしかなかった」と話すが、『パト2』の続編を描くことは、「アニメだったらやらなかったと思う。アニメだったらやる意味がない」とキッパリ。

では実写だからこそ撮れるものとはどんなものなのだろうか?「年月が経って、どう変わったかということ。そこに拠り所を求めた。アニメはさ、ほとんどしゃべっているから『論文みたいな映画』だっていわれて(笑)。でも実写というのは、役者さんの肉体を根拠に撮ることができる。アニメとは絶対的に違う」と話し、「実写でやることで、はっきりとした時間の経過や時代の傾向が出せたと思う」と自信をのぞかせる。

押井監督の考える時代の傾向とは、「今の時代のテロリストってどんなものだろうと考えたときに、たぶん、正義を掲げてクーデターを起こす連中ではないと思った。もっとなんとなく気持ち悪いもの。何を考えているんだかよくわからないもの。それが今回の灰原というキャラクターになった」。

テロに関わる女性パイロット・灰原(森カンナ)を女性キャラクターにした意図を聞いてみると、「単純に撮る方のモチベーションが上がるから」と笑うが、「ヌタッと笑う、あの感じはやっぱり女性がいい。わけのわからないことが一番、恐怖感をあおるよね。あとは女性の映画にしたかったということ。今、スクリーンの真ん中に描けるのって、やっぱり女性でしょう。それで今回は5人の女性が戦う話で、それに後藤田隊長が翻弄されることにしたんです」。

「なんなんだアイツは」とわけのわからないものに翻弄される。それこそが現代に起きる犯罪への肌触りだといい、その空気感は実写だからこそ出せるものだったというのだ。

特車二課の“伝統”へと踏み込んでいく本作。後藤田隊長役の筧は「今回は『パト2』が下敷きとなるし、押井作品のパーツの一部になるわけですから、研究していきましたよ」と押井作品を研究して、作品に臨んだ。一方、真野は「私はお芝居の経験もなかったので、そのパーツにはめてもらおうという気持ちでいきました」とまっすぐな瞳を見せる。「実際に、私の演じた明や、三代目の隊員たちは特車二課の伝統や遺産について知らなかったりする。なので、その伝統は知らなくてもいいのかなと思いました」。明と同じく、まっさらな気持ちで挑んだ。

押井監督は「隊長と隊員たちとの間には、当然、温度差があるんだよ」とうなずく。一見、いい加減な人間に見える後藤田隊長は、特車二課の伝統をどこかで背負って生きている。「隊長室で一人でいるときに見せる顔と、隊員たちと一緒にいるときの顔は違う。顔を使い分けたりするでしょう。その辺が人間の面白いところじゃない?」。

さらに「それはアニメでやるのは絶対に無理。相当、手間暇かけていろいろとやったけれど、それでも実写には到底、及ばない。生身の人間の持っている情報量がいかにすさまじいかですよ」と大きくうなずく押井監督。実写の醍醐味と手応えを感じ、晴れやかな笑顔を見せていた。【取材・文/成田おり枝】

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