永作博美、理想の夫婦像を前田弘二監督と語り合う
実在の闘病ブログの映画化作品なのに、決して湿っぽくなくて、むしろゲラゲラ笑えて気持ちよく泣ける。佐々木蔵之介演じる“ダンナ”と、永作博美演じる“ヨメ”が織りなす『夫婦フーフー日記』(5月30日公開)では、結婚、出産、闘病という怒涛のような日々がユニークな形で綴られている。永作博美と、メガホンをとった前田弘二監督にインタビューし、撮影エピソードや理想の夫婦像について話を聞いた。
長年友人関係だった男女がようやくゴールイン。ところが結婚して1か月後、ヨメの妊娠に続いて悪性腫瘍も見つかる。そこは原作どおりなのだが、映画では、死んだはずのヨメがダンナの前に現れ、ともに生きた日々をたどっていくという斬新なアプローチをとった。
前田監督は、『婚前特急』(11)や、『わたしのハワイの歩きかた』(14)など、とびきり愉快でチャーミングなラブコメディが十八番の印象があるが、本作では、笑いと涙を絶妙なバランスで織り交ぜ、一風変わったファンタジーに仕上げている。現場では、佐々木と永作の間の空気感を何よりも大切につくっていったと言う。
「本当は悲しいシーンなのに、どこか微笑ましかったり、楽しいシーンなんだけど、どこか切なかったりするのは、その場で生まれたものを大事につなげていこうと思ったからです。自分のイメージどおりにいくのは面白くない。最初からこうだと決め付けるのではなく、僕も発見していきたかったんです」
永作も「この2人だからこそ、こういうものが生まれたんだというものがどんどん重なっていけば良いなあと思いました。ヨメがダンナを元気づけようとしているのはわかるんですが、気がつくと本気で闘っている(笑)。そこもまた面白いと思いました」と夫婦の掛け合いについて語る。
前田監督も「亡くなったヨメが現れて、過去を振り返りながら突っ込むというのも、なんだかヨメっぽいんです」と言うと、永作もうなずき「結局、競っちゃう。勝つためには何でもやるという感じ。そこがバカな夫婦だなあと面白く見られる点なんでしょう」と笑う。
ヨメについて、永作は「とにかく豪快で面倒見が良い人。ある意味、自分のやりたいことや、自分の好きなものに対し、欲が強い人なのかもしれない」と、エネルギッシュな点を称える。たとえば、病状が悪化し、食が細くなっているのに、好きなハンバーガーをほおばるというシーンは、それを端的に物語っている。
永作は「食べるシーンは、難しいです。矢継ぎ早に食べたいんだけど、一口を大きくしちゃうと次がいけない」と苦笑い。前田監督も「最後にハンバーガーを食べるシーンは、ちょっとずつ一口を大きくしてもらったんです」とイタズラっぽく言う。
永作も「『これは入らないと思いますけど、やってみますね』と食べたら、きれいにパクっと入りました。ヨメは、好きなものはどんなことがあっても曲げられない人なんだなあと。そういう意味で、生命力を大きく感じるんだと思います」。
作家志望のダンナに対して、常に「書け!」とお尻を叩くヨメ。その夫婦関係について、前田監督は、理想的だと感じたそうだ。「2人が言い合うけど、本音はどこか別のところにある。照れがあり、どこかウブなところがあってかわいいんです」。
永作も「お互いのことをすごく思っているんですけど、それを出すのは恥ずかしいから、ちょっと引く。その隙間がちゃんとある感じが良いんです」と言う。「でも、亡くなった後のやりとりを見ると、ちょっとある意味、男の人の理想というものが入ってきているのかなあとは思いました」。
実話ベースの映画化作品だけに、とことん笑って感動した後、強烈なメッセージにがつんとやられる『夫婦フーフー日記』。ハンカチ必携で臨みたい快作である。【取材・文/山崎伸子】