「白すぎる」オスカー視聴率、黒人視聴者は微減【2】

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「白すぎる」オスカー視聴率、黒人視聴者は微減【2】

(【1】の続き)授賞式に関しては、難しいタイミングでボイコットを呼びかけられたにもかかわらず、ホストを続行した黒人クリス・ロックの健闘も認められている。

しかし彼は黒人と言っても、熾烈な闘いを勝ち抜いた一握りの成功者でもある。歴史ドラマ『グローリー/明日への行進』でも描かれた、アラバマ州セルマで起こった「血の日曜日事件」から丁度50年を迎えた昨年3月7日、たまたまクリスと同じロサンゼルスからニューヨーク便に乗り合わせたが、クリスが搭乗していたのはファーストクラスだった。

そんな彼が黒人代表として、「『Ray/レイ』(04)でオスカーを受賞した黒人俳優ジェイミー・フォックスのような演技をすればいいんだ。(白人の)ベン・アフレックにはできないよ」「チャンスが欲しいだけだ」と訴えたところで、なかなか黒人は希望を持つことができないという現状もある。

「黒人が司会だから観るということはない」と言い切る黒人も少なくないため、ファーガソンを発端にして起きている黒人と白人警察との衝突など、アメリカ社会の問題を踏まえたうえでクリスをホストに起用したことが、必ずしも黒人の視聴率向上には結びつかなかったようだ。

また、クリスのホストで、男性の視聴者数は増えた一方で、女性の視聴者数が減ったというデータもあり、女性からの人気の有無によって、視聴者数に与える影響もあると考えられている。

クリスがオープニングから人種問題に触れたのはよかったが、賞を通じて執拗なほど白すぎるオスカーに執着したことも、メリハリがなく全体を単調にしてしまった、という意見もある。また、プレゼンターにイ・ ビョンホンや、多数の黒人を多数起用したり、アジア人の子供たちを登場させたりするなどの多様性に対する努力が、無意味でわざとらしすぎるという意見などが挙げられている。

クリスの、「『クリード チャンプを継ぐ男』では黒人版ロッキーが誕生したよね。そもそも『ロッキー』シリーズで、白人のアスリートが黒人のアスリートに勝つっていう設定自体がSFだよね。まだSF『スター・ウォーズ』シリーズの中で起こることの方が、信じられるね」という発言は、白人アスリートは黒人には勝てないと言い切っているものであり、「例えオスカーやゴールデングローブ賞でも、白人が反対の立場でこういうことを言ったら大変なことになる。なんだか黒人の特権みたいで 複雑な思いだった」と不快感を感じた白人や、「普段不満を感じていないわけじゃないけど、わざわざ黒人、白人を、これでもかとばかりに分類しているのが不快だった」として見るのをやめた黒人も少なくなかったようで、白すぎるオスカーを意識しすぎるあまり、本来の意味を失いつつあると感じる白人のオスカーファン離れも顕著だったようだ。

他には、「シルヴェスター・スタローンが選ばれなかった時点で、オスカーは何も変わってないと思ってみるのをやめた。やっぱり作品賞も思った通りだった」という意見。

レオのスピーチに代表されるような環境問題、バイデン米副大統領を招いてのガガの熱唱による性的虐待撲滅、サム・スミスが言及したLGBT問題、作品賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』を通じての、神父の子供に対する虐待問題やジャーナリズムに対する訴えなど、「今年のオスカーは政治的というよりも、セレブそれぞれが個人で行っている活動のキャンペーンの場になった」と指摘する声も多く、途中から見るのをやめたという声もある。

これらの様々な要因によって、残念ながら視聴率は低下してしまったが、開催前に起きたボイコット騒動によって、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミー会長が選考メンバーの見直しを発表。アクションを起こすことで、少しづつでも状況が変化していくことが期待されている。

既に来年に向けての賞レースは始まっている。来年はどんな作品や人たちがノミネートされるのか、またホストは誰になるのか、今から楽しみだ。【NY在住/JUNKO】

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