大泉洋「役者の仕事は過酷な罰ゲームみたい」
花沢健吾の同名人気コミックを、『図書館戦争』シリーズの佐藤信介監督が映画化した『アイアムアヒーロー』(4月23日公開)で、すさまじい死闘を繰り広げる主人公を熱演した大泉洋にインタビュー。自分史上、いちばん過酷だったという壮絶なロケについて、振り返ってもらった。
大泉洋が扮したのは、うだつの上がらない漫画家アシスタント・鈴木英雄役。彼らが巻き込まれるは、ウィルス感染により、人間が変貌した謎の生命体“ZQN(ゾキュン)”が街を襲うというパンデミックだ。英雄と行動を共にする女子高生・早狩比呂美役を有村架純が、元看護師の藪役を長澤まさみが演じている。
広大なアウトレットモールにZQNが氾濫するシーンは韓国でロケを敢行。「ちょうど韓国に使われていなかったモールがあって、そこで壮絶な撮影をしましたね(笑)。日本では決してできなかったと思います。僕が撃ったのも本物の銃です。もちろん空砲ですけど、本当に撃っています。日本では模造銃しか使えないのでそこもリアルな撮影になったと思います。エキストラの数も膨大でした。最後に僕が倒したZQNの山は凄かったです。端から端まで全部人で覆い尽くされていて。でもラストシーンは照明も奇麗で不思議と美しいくらいでした」。
大泉は、本作のスケールに圧倒されたと言う。「ここまでやるんだ!と。(配給元の)東宝の本気度を感じました。最初に逃げ惑うシーンのアクションは、韓国でしかできなかったと思う。走っている車を車にドーンとぶつけ、ぐるぐると何回転もしながら吹っ飛ぶなんて、日本では絶対にできない技術でしょうね」。
実際に、撮影でひやりとした瞬間もあった。「僕らが逃げ続けるシーンをノーカットで撮るんです。タクシーが突っ込んできたり、上からZQNが落ちてきたり、スタントマンが車に轢かれたりするのを5、6本撮りました。その時、1回タクシーに当たったんです。タクシーが僕の目の前で止まり、前へ行けなくなるというシーンでしたが、ギリギリを狙いすぎて、当たりました。びっくりしました(笑)」。
大泉といえば、バラエティ番組「水曜どうでしょう」などのハードなロケで百戦錬磨をしてきた印象が強いが、彼自身は「はっきり申し上げて、バラエティでやる罰ゲームよりも役者の仕事の方がよっぽど過酷な罰ゲームみたいなもんですよ(笑)」と言い切る。
「バラエティをやる時、『危ないよ』と言ってはいるけど、僕らが役者としてやっていることの方がよっぽど危ないし、よっぽど怖いことも多いです。それにバラエティなら、真冬の川に飛び込むことで笑いが取れるし、ぼやいているところもたくさん使ってもらえるけど、役者は真冬の川に入ることだって全然ありますからね。しかもボヤイて笑いがとれることもなく(笑)」。
韓国ロケは、特に長くて辛かったと激白。「毎日深夜まで撮影が延々と続くんです。映画と同じで、どれだけ撃ってもきりがない。とはいえ、撮影は大変だったけど、楽しかったですよ。ただ、僕にとって、1か月くらい家族に会えなかったことがきつかった」。
大泉にとって家族の存在は、元気の源だと言う。「僕の場合、娘がまだ小さいから、休みの日に娘と遊ぶので1日中、体を休められているわけではないのですが、娘の笑顔を見たり、娘を抱きしめたりすることで何よりも癒やされますし、それがないと辛い」。
もちろん苦労した分、見返りは大きかった。「観終わった時、これは世界に胸を張って出せる映画だなと思えたことがうれしかったです」。
『アイアムアヒーロー』はすでにスペインで開催された第48回シッチェス・カタロニア国際映画祭のコンペティション部門で観客賞と最優秀特殊効果賞を、ポルトガルで開催されたた第36回ポルト国際映画祭のコンペティション部門で、観客賞とオリエンタルエキスプレス特別賞を受賞した。大泉は、何よりも観客賞の受賞に感激した。
「お客さんからいちばん面白い作品だと選んでもらえた。それこそ、いちばん正しい評価だと僕は思っているので、すごく誇れるなと。原作の漫画が好きな人には間違えなく楽しんでもらえると思うけど、漫画を読んでいない人にも、面白かったと言わせる自信はあります」。
大泉洋の力強い締めの言葉が頼もしい。インタビューした後、ベルギーのブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭ではグランプリを受賞。これで世界三大ファンタスティック映画祭を制覇する形となった。日本映画界が気合十分に放つ『アイアムアヒーロー』で、是非ZQNパニックを体感してみて!【取材・文/山崎伸子】