カルト的人気にSF大作『DUNE』の頓挫…91歳の鬼才監督ホドロフスキーの歩み
カルト映画界の巨匠として知られ、御年91歳を迎えたいまも新作の撮影に精を出すアレハンドロ・ホドロフスキー。そんな彼の集大成とも言える『ホドロフスキーのサイコマジック』が、本日6月12日から公開中だ。その独特な表現から“映像の魔術師”とも称される彼の、決して平たんとは言えなかったこれまでの歩みを振り返りたい。
演劇の第一線からカルト的人気を持つ映画監督へ
チリ出身のホドロフスキーは、サンティアゴ大学で心理学と哲学を専攻する。しかし、マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』(45)に感化され、パントマイムにのめり込んだことから大学を中退。舞台演出に傾倒し、のちに渡ったメキシコシティでは100本以上の前衛演劇を手掛けたという。
その後、表現の場を映画に移したホドロフスキーは、フェルナンド・アラバールの戯曲をもとに長編映画第一作目となる『ファンド・アンド・リス』(67)を手掛ける。足の不自由な女性リス(ダイアナ・マリスカル)を連れ、すべての望みが叶うという街”タール”を目指す青年ファンド(セルジオ・クレイネル)の道行きを描いた本作は、過激な暴力シーンも活写。表現のタブーを無視した過激な描写から初上映時には暴動が巻き起こり、やがてメキシコ国内では上映禁止となった。
長編デビュー作から騒動を巻き起こし、その名を知らしめることになったホドロフスキー。自ら主演も務めたメキシコ・ウェスタン『エル・トポ』(70)は終始血生臭さが漂い、一人のガンマンの白昼夢のような生涯が描かれる。ニューヨークでは深夜限定上映ながらロングランヒットを記録したほか、ジョン・レノンやアンディ・ウォーホルから熱烈な支持を得て、後のホドロフスキーの代表作となった。
続く『ホーリー・マウンテン』(73)は、不死の体を得るために「聖なる山」を目指す9人の男女の物語。その儀式の独特さや鮮やかなセット、被写体の真上でカメラを回転させながら撮影する独特な手法など、映像へのこだわりにカルト的な人気が加速。宗教的概念や魔術的思考などが織り交ぜられた摩訶不思議な世界に、公開時イタリアでは『007/黄金銃を持つ男』(74)に次ぐナンバー2のヒットを記録した。
SF大作に挑戦!しかし頓挫していばらの道へ…
世界的に人気が広まってきたホドロフスキーは、1975年からSF大作『DUNE』の製作に取り掛かる。フランク・ハーバートの「デューン/砂の惑星」を原作に壮大な構想が立てられ、サルバドール・ダリやオーソン・ウェルズらをキャストに迎えて撮影準備が進められたものの、配給会社探しが難航し、この企画がクランクインすることはなかった。フランク・パヴィッチ監督の『ホドロフスキーのDUNE』(13)では、作品の隅々まで妥協しないホドロフスキーの映画製作への情熱がありありと語られている。
『DUNE』の企画頓挫により、ホドロフスキーはしばらく映画界から遠ざかることに。復帰作となった『サンタ・サングレ 聖なる血』(89)はサーカスが舞台のトラウマを抱えた少年による復讐劇で、ラブストーリーが軸に据えられたエンタメ性の高い作品だ。続けてピーター・オトゥール、オマー・シャリフらスター俳優を起用した『ホドロフスキーの虹泥棒』(90)を発表。風変わりな大富豪ルドルフ(クリストファー・リー)が急逝し、彼の遺産を巡る甥メレアーグラ(オトゥール)と友人である泥棒のディマ(シャリフ)によるドタバタ劇が展開するが、プロデューサーに製作の主導権を握られて満足な映画作りができなかったと、のちにホドロフスキーは振り返っている。
盟友との再会により、再び第一線に舞い戻る!
前述の『ホドロフスキーのDUNE』の撮影によりプロデューサーのミシェル・セドゥと再会し、35年ぶりに共に映画を作ることを決意したホドロフスキー。こうして生まれたのがホドロフスキーの自伝的作品『リアリティのダンス』(13)だ。2016年にはその続編である『エンドレス・ポエトリー』(16)も発表。ホドロフスキーの息子であるブロンティス・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキーがそれぞれの主演を務めている(現在、この自伝的三部作の完結編となる新作を準備中)。
そして、このほど公開されたのが本作『ホドロフスキーのサイコマジック』だ。これまでの彼の類まれな映像表現の根源となる(心理療法)“サイコマジック”という概念が提示され、その手法により相談者の大小様々な悩みを彼が巧みに解決へと導いていく姿が映しだされるドキュメンタリーである。
母親に愛されないまま育った女性が治癒者たちの誘導により生まれてから成長するまでのロールプレイを行ったり、吃音に悩む男性がホドロフスキーに局部を握られた後に全身を金色に塗りたくって街中を歩き回ったり…独特な荒療治が繰り広げられるが、その治療法はホドロフスキー作品の断片を感じずにはいられないものばかり(劇中に登場するが、過去作にも“サイコマジック”が散りばめられていたのだ!)。50年にもわたりサイコマジックを実践してきたホドロフスキーの功績を知れば、彼の監督作も新たな側面から観ることができるだろう。
巧みな映像表現で人々を魅了する傍ら、大勢の人の悩みも解決してきたホドロフスキー。挫折も経験してきた彼だからこそたどり着いたその境地を、ぜひスクリーンで目に焼き付けてほしい。
文/トライワークス
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