『時をかける少女』永遠に色褪せないヒロイン像…大林宣彦が発掘したアイドル女優たち
原田知世の映画初主演作『時をかける少女』(83)がNHKBSプレミアムで放送され、改めて話題を呼んでいる。「僕は大人の男だから、少女に惹かれるんだよ」。かつてそう語った大林宣彦監督は、“映像の魔術師”の異名をとる映像作家であると同時に、多くの女性アイドルを発掘し、女優へと育成したパイオニアでもある。
1977年の劇場映画の第1作『HOUSE ハウス』で早くも池上季実子や大場久美子ら七人の美少女を輝かせ、第2作『瞳の中の訪問者』(77)では殺人事件の被害者の角膜を移植されるヒロインを演じた片平なぎさの初々しい魅力を全開に。ゴルーデンカップルの結婚をアシストした第3作『ふりむけば愛』(78)では、その時にしかない山口百恵の多幸感を焼きつけて見せた。
そんな大林監督=“アイドル映画の担い手”を決定づけたのは、なんといっても81年の角川映画『ねらわれた学園』だろう。松任谷由美の主題歌「守ってあげたい」が流れるオープニングから、男の子はもちろん同年代の女の子までもが、ヒロインに扮した薬師丸ひろ子の唯一無二のきらめきの虜になった。そのファン心理は“映画でしか会えないアイドル”という角川映画の戦略で増幅もしたが、それだけではない。棒読みのセリフ、観客に語りかけるようなカメラ目線、コマ落としの撮影といった大林監督ならではの独特の演出が、観る者の中で薬師丸をより特別な存在へと昇華させたのだ。
その手法は『転校生』(82)に続く尾道三部作の第2弾『時をかける少女』でも導入されたが、本作ではさらに、主演の原田知世を撮影前から尾道に滞在させ、下駄履きによる背筋を正した生活をさせることで、彼女の純粋さを覚醒。冒頭のシーンまで一気に巻き戻るエンドロールの最後まで観客の目をクギづけにする、あのジュブナイルSFのヒロイン像はいまもなお色褪せていない。誰もが認める、大林映画No.1のミューズだ。
もちろん、尾道映画の第3作『さびしんぼう』(85)で白塗りのタイトルロールと顔の片側だけを見せる、少女の憂いと儚さを印象づけた富田靖子、のびやかな裸体で戦争の犠牲者でありながらも凛と生きる少女を体現した『野ゆき山ゆき海べゆき』(86)の鷲尾いさ子も忘れるわけにはいかない。『ふたり』(91)で心やさしい姉の霊に扮した中嶋朋子、彼女に見守られながらゆっくり前を向く妹役の石田ひかりに心癒された人も多いだろうし(余談だが、本作には中江有里や島崎和歌子も出演)、『あの、夏の日 とんでろ じいちゃん』(99)のピュアな宮崎あおいも鮮烈だった。
そして自作のセルフリメイク『転校生 さよならあなた』(07)のヒロインに抜擢した蓮佛美沙子と『理由』(04)以降の大林映画には欠かせない存在となった寺島咲、『この空の花 長岡花火物語』(12)から最後の作品になった『海辺の映画館-キネマの玉手箱』(7月31日公開)までの全作に出演した山崎紘菜。彼女たちが、大林監督からもらった数々の教えを次世代に伝えてくれるに違いない。
文/イソガイマサト
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