古典的名作『風と共に去りぬ』の配信中止。問題そのものではなく、対応が問われる時代に
5月27日にサービスを開始したばかりのストリーミング・サービスのHBO Maxが、『風と共に去りぬ』(39)の配信を取りやめている。これは、6月10日にLAタイムズに掲載された『それでも夜は明ける』(13)の脚本家ジョン・リドリー氏による論説記事を受けての対策だ。
リドリー氏は、「この映画は南北戦争下の南部を美化したもので、奴隷制度の残酷さを無視し、有色人種に向けられたステレオタイプを永続させている」とし、HBO Maxのラインナップから『風と共に去りぬ』を削除するよう求めた。そして、「これは検閲ではなく、この作品が再度配信される際に奴隷制度や南部連合軍を描いた他の作品と並べることにより、異なる視点から物事を捉えることの重要性についての対話が生まれるだろう」と書いている。
この論説を受け、HBO Maxは即座に『風と共に去りぬ』の配信を一旦中止し、後日再配信する際には、今作が作られた時代背景と、問題となる描写について説明書きを加えると発表した。作品に編集を加えると歴史修正にもつながるため、オリジナルのまま配信するという。
アメリカ映画の古典的名作とされる『風と共に去りぬ』は第12回アカデミー賞で作品賞、監督賞(ヴィクター・フレミング)、主演女優賞(ヴィヴィアン・リー)など8部門を受賞し、その中にはオハラ家に仕える乳母を演じたハティ・マクダニエルがアフリカ系アメリカ人女優として初めて受賞した助演女優賞も含まれている。
マーガレット・ミッチェルの小説を忠実に映画化した物語の中心にあるのは、南部の裕福な農園の娘スカーレット・オハラの壮大なロマンスで、オスカー受賞歴が証明するように批評家からの絶賛と興行的成功を納めている。だが、今作が公開された1939年にもわずかだが否定的意見もあり、いくつかの都市では上映抗議デモが行われていたそうだ。
『風と共に去りぬ』のほかにも、次々と番組のキャンセルや配信中止が起きている。パラマウント・ネットワークは、リアリティ番組「COPS」の放送を取りやめた。現在33シーズン目を迎える長寿番組だが、番組内で繰り返される人種差別的表現が過去にも問題になっている。
また、ノンフィクション専門のA&Eチャンネルで放送されている「Live PD」も制作中止を発表。「Live PD」は全国の都市をパトロールする警察官を生中継で追う人気番組だった。また、同番組に関しては、テキサス州オースティンで交通法違反によって勾留中の黒人男性が取り調べ中に亡くなった際の映像を撮影していたのにも関わらず破棄したことも問題視されている。
そのほか、Netflixはオーストラリアとニュージーランドで配信中だったオーストラリア人コメディアンのクリス・リリーが出演する4作品の配信を差別的表現が含まれていることを理由に中止。米コンデナスト社の料理雑誌「Bon Appetit」の編集長はInstagramに差別的な写真を投稿したことにより辞任に追い込まれた。
辞任において、SNSの無作法はきっかけに過ぎず、編集スタッフの給与が白人と有色人種で大きく差があることなどが批判されている。同じコンデナスト社発行の「VOGUE」米国版編集長のアナ・ウィンターは社内文書で、過去に誌上で不寛容な内容の記事を掲載したことや、有色人種スタッフの給与や待遇への考慮が甘かったことを謝罪したという。
これらは氷山の一角に過ぎず、今後も制作中止や配信・配給中止が生じるだろう。HBO Maxによる『風と共に去りぬ』への対応は、作品の配信を中止し議論を強制終了させるのではなく、再配信する際に但し書きをつけることで対話のきっかけを作るという前向きなものだった。
懐疑的な作品全てにおいて同じような対応をすればよいというものではない。映画やテレビ、雑誌の内容だけでなく、どんな状況のどんな仕事にも関係してくる。問題が生じた際の対応と処置にこそ、企業やサービスの力量が問われる。
文/平井 伊都子