名コンビ復活!アルモドバルとバンデラス…キャリア最高の新作と、鮮やかな軌跡

コラム

名コンビ復活!アルモドバルとバンデラス…キャリア最高の新作と、鮮やかな軌跡

『デスペラード』(95)や『マスク・オブ・ゾロ』(98)、『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』(14)などでも知られるラテン系スターのアントニオ・バンデラス。そんな彼が、同郷でもあるスペインの鬼才ペドロ・アルモドバルと8度目のタッグを組んだ『ペイン・アンド・グローリー』が6月19日(金)より公開される。

アルモドバル&バンデラスの最新作『ペイン・アンド・グローリー』
アルモドバル&バンデラスの最新作『ペイン・アンド・グローリー』[c]El Deseo.

70歳を迎えたアルモドバルの自伝的なこの作品は、アカデミー賞国際長編映画賞にノミネート。そして、彼のいわば分身を演じたバンデラスは、同じくアカデミー賞で主演男優賞にノミネートにされたほか、カンヌ国際映画賞では主演男優賞を獲得。新たな代表作を生み出した二人は、どんなキャリアを構築してきたのか?その多彩でビビッドなフィルモグラフィとあわせて振り返りたい。

蜜月の80年代、スペインの黄金コンビとして台頭

初めてのタッグは、アルモドバルが80年に長編監督デビューしてから2年後、82年の『セクシリア』だ。ニンフォマニア(淫乱症)の女性ミュージシャンを主人公に、様々なセクシャリティを持つ人々を描くコメディで、当時20代初めの美青年バンデラスは、ゲイの医学生役。街角ですれ違った男性と意気投合し、自宅に連れ込んで即ベッドイン。“人を好きになると相手の匂いがつきまとう”という特技の持ち主で、どこか動物的な動きを見せるさまには、のちに彼の魅力の代名詞となったワイルドさがすでにムンムン。この作品にはアルモドバル自身もバンドのメンバーとして出演しており、パンクなステージを披露している。

2作目は、『マタドール<闘牛士> 炎のレクイエム』(86)。殺人に快楽を感じる元闘牛士(マタドール)ら倒錯した性癖を持つ男女の愛憎劇で、バンデラスが演じるのは闘牛士の見習い。一見は初心な青年だが、師であるマタドールにゲイを疑われ逆上し彼の恋人を襲ったり、自分は殺人犯だと告白し始めるなど、徐々に危険な様相を帯びていくさまは圧巻だ。続いて、ヴェネチア国際映画祭脚本賞に輝くなど世界的な注目を集めた『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(87)。タイトルどおり、メインは恋愛に悩み傷ついた女性たちで、バンデラスは黒一点、メガネにスーツ姿でインテリ風の登場。婚約者がいるにもかかわらず、ビビッときた女性に速攻で迫る艶っぽさでゾクゾクさせた。

タッグ2作目の『マタドール』
タッグ2作目の『マタドール』[c]2007 Video Mercury Films All Rights Reserved

この頃、アルモドバルの作品には常にバンデラスがいた。欲望をテーマにセクシャリティを色濃く映しだす作品と共に、彼の演じる役柄はより複雑でハードに、それと同時に拡散されるフェロモンもどんどん増えていく。『欲望の法則』(87)では、ゲイの映画監督とその倦怠期にあった恋人の間に割って入る青年役で、嫉妬深さから殺人を犯す狂気を体現。5作目の『アタメ』(89)では、女優に一方的に求愛し、拒まれると監禁してベッドに縛り付けるという暴力的な男を演じている。(ビデオタイトルは『アタメ/私をしばって』だった)。
思い込んだら一直線な猪突猛進型のキャラクターは一貫しているが、特に『アタメ』では、異常ではあるものの、愛する女性に献身する姿に純粋さを宿らせていて、憎めないどころか胸を打たれる。彼女の気を引くため得意げに逆立ちしてみせたり、陽気に歌う場面もあるなど、バンデラスの多彩な表情も見られるユニークな一作だ。

異なるフィールドでの成功を経て、タッグ再開

やがて90年代に入り、2人それぞれに転機が訪れる。バンデラスは『マンボ・キングス わが心のマリア』(92)でハリウッドに進出。『フィラデルフィア』(93)や『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(94)を経て、ギターケースに武器を詰め込んだマリアッチ(ミュージシャン)という変てこなのにかっこいい役柄を演じた主演作『デスペラード』(95)で大ブレイクを果たした。
以降、アルモドバル作品とは一線を画したエンタテインメント作品で、持ち前のワイルドさやタフさ、そしてセクシーさを爆発させ、ハリウッドスターとして絶大な地位を確立。一方のアルモドバルは、女性を主人公にした名作を生みだし続け、『ハイヒール』(91)をはじめ、女性賛歌3部作と言われる『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)、『トーク・トゥ・ハー』(02)、『ボルベール 帰郷』(06)などを創作。多くの作品で映画賞を獲得し続けて名声を高めていった。

バンデラスのダンディさが光る『私が、生きる肌』
バンデラスのダンディさが光る『私が、生きる肌』Photo by Jose Haro O El Deseo

この間、コラボレーション作品は途絶えていたが二人の信頼関係は失われることなく、2011年に『私が生きる肌』で22年ぶりのタッグが実現。50代を迎えたバンデラスが演じたのは、人工皮膚を開発する天才医師で、亡き妻にそっくりな美女を創り上げていく男。渋みと深みをたたえたダンディな外見で、狂気と激情を内に秘めた役柄を体現し、彼の新たなステージを感じさせた。作品の醸すエロティシズムや暴力性と相まって、アルモドバル初期の作品を彷彿させたところも印象深い。ここで古巣に戻った懐かしさからか、13年のコメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』では、同じくアルモドバルの盟友であるペネロペ・クルスと共にカメオ出演している。

そして今回、2人の黄金コンビぶりを新たに証明するのが『ペイン・アンド・グローリー』だ。バンデラス演じる主人公は、身体的な痛みや母親の死から立ち直れず引退同然の生活を送る映画監督。そんなある時、32年前に撮った代表作の再上映をきっかけに、自身の過去と向き合うことになる。母親への深い愛情、自身のセクシャリティとの対峙、映画へのあくなき情熱…アルモドバルの集大成といわれるのも納得だが、さらにバンデラスの新境地も見逃せない。老齢にさしかかった男の苦悩と再生への兆しを緻密で繊細に演じ、感動を誘っている。

【写真を見る】アルモドバルの分身を演じたバンデラス
【写真を見る】アルモドバルの分身を演じたバンデラス[c]El Deseo.

アルモドバルとバンデラスの2ショット
アルモドバルとバンデラスの2ショット[c]El Deseo.

キャリアの頂点とも呼ぶにふさわしいこの作品に対し、バンデラスは感慨深いコメントを寄せている。「40年に渡って、アルモドバルの人生の様々な瞬間に立ち会ってきた。この業界で彼と共に育ち、その内側にあるものを一人称で見てきたとも言える。世界がどうなっていたのか、その時起こることをどのように見ていたのか。そして私たちがいかにドラマからコメディへと移行し、またドラマへと戻ってきたのか」。…長年に渡る二人の強い絆が結実した本作を、じっくりと堪能してほしい。

文/トライワークス

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発売・販売元は、すべて松竹

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