話題の中国SF「三体」翻訳者・大森望が語る『TENET テネット』…SFで“時間”を描く意味とは?
「時代遅れだと思われていた題材が、現代SFで復活しつつある」
大森さんが翻訳に携わった「三体」は、中国本国でシリーズ合計2100万部、英訳版も100万部以上の売上を記録する世界的ベストセラー。本作を筆頭に、日本でも中国のSF作品への注目が集まっている。「劉慈欣(リュウ・ジキン)の『三体』三部作。とりわけ第三部の『死神永生』は、SFのなかでは、ワイドスクリーン・バロックと呼ばれる潮流に属しています。大量のアイデアを詰め込んだ絢爛豪華なストーリーを壮大なスケールで展開するタイプで、代表作が書かれたのは半世紀以上前。もう廃れたジャンルのように思われていましたが、『三体』の大ヒットで再び見直されています。異星人の侵略とか、宇宙艦隊とか、時代遅れだと思われていた題材が、現代SFで復活しつつある印象です」
「予算10億ドルくらいで、『三体』をノーランに映画化してほしい」
独創的な物語が展開されるノーラン作品。その作家性には、どのようなSF作家からの影響を受けているように感じられるか、聞いてみた。「ノーラン自身はフィリップ・K・ディックの作品を映画化していませんが、『インセプション』はディック作品、とくに『ユービック』の影響を感じますね。『プレステージ』(06)の原作は英国のSF作家クリストファー・プリーストの『奇術師』です。プリーストは文学寄りの作家ですが、現実と虚構を混淆させる手法はノーラン作品にも通じるかもしれません」
続けて、ノーランのストーリーテラーとしての魅力にも言及。「ノーランは非常にハッタリがうまいというイメージがあります。アイデアを画で見せる手腕も素晴らしいです。ただ、『インターステラー』ではスペクタルを優先するあまり、理屈が置いてきぼりになっているところもあり、個人的には不満が残りました。前提として、時間SFは理屈を通すのが難しいので、『TENET テネット』でそこがどう描かれるのかにも注目しています」とし、期待の大きさを言葉にする。
最後に、今後ノーランに映画化してほしい作品を尋ねると、やはりあの話題作を推す答えが返ってきた。「『三体』三部作をぜひ映画化してほしいですね。基本はファースト・コンタクト(侵略)ものですが、ものすごくハッタリの利いた派手なスペクタクルが連続し、地球でも宇宙でも見せ場に事欠かないので、かなりノーラン向きじゃないかと思います。中国で一度、映画化が浮上したもののお蔵入りしてしまい、いまはアニメ化とドラマ化が進行中のようです。ノーランにはぜひ、10億ドルぐらいの予算でお願いしたいです」
取材・文/トライワークス
WHAT IS TENET?クリストファー・ノーランが仕掛ける『TENET テネット』特集
■「息吹」
発売中
価格:1,900円+税
著:テッド・チャン/訳:大森望
■「三体」
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価格:1,900円+税
著:劉慈欣/訳:大森望、光吉さくら、ワン・チャイ/監修:立原透耶
■「三体Ⅱ 黒暗森林(上・下)」
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著:劉慈欣/訳:大森望、立原透耶、上原かおり、泊功
発行元はすべて早川書房
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