【今週の☆☆☆】涙なくしては観られない…大林宣彦監督の集大成『海辺の映画館―キネマの玉手箱』や、男子高校生の青春を描く『#ハンド全力』…週末観るならこの映画!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今回は、7月31日から1日に公開の作品をピックアップ。映画館からはじまるタイムリープを描くエンタテインメントや、加藤清史郎がハンドボール部員を演じる青春映画、名曲の誕生秘話が明かされるドラマなどバラエティ豊かな3本!
大林ファンはもちろん、すべての映画ファンに…『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(7月31日公開)
映画作家の集大成。その言葉に、これほどふさわしい作品はないだろう。今年の4月10日に亡くなった大林宣彦監督。残念ながら最後となってしまった今作は、監督が故郷の尾道で20年ぶりに撮影した作品であり、テーマ、手法ともに「映画」ができることを最大限に生かした渾身の一本である。閉館が決まった映画館で、戦争映画のオールナイト興行を観ていた3人の若者が、スクリーンの中の世界に入り込んでしまう。自在に時代を行き来して、戦争の真っ只なかに放り込まれたり、ミュージカルの世界で踊ったりと、彼らの不思議なタイムトリップを観客われわれも疑似体験。生きることの大切さ、そして監督が生涯を通じて訴えてきた戦争の不毛さがパワフルに伝わってくる。監督の初期作品もよみがえる遊び心満点の映像処理や、映画館へのノスタルジー、大林作品ゆかりの俳優の活躍、そして監督本人の登場まで、大林ファン、いや映画ファンは涙なくしては観られない。(映画ライター・斉藤博昭)
現代を風刺した全く新しいスポ根青春もの…『#ハンド全力』(7月31日公開)
ハンドボールを全力で頑張る男の子たちのスポ根ものと思ったら大間違い。ハンドボールを頑張ってる“風”の写真を全力でSNSにあげる男の子たちの物語。震災でハンドボールをやめた熊本の高校生マサオはSNSにあげた写真が注目されたことから、「#ハンド全力」を使っての投稿に夢中になる。仲間とともにハンドボールではなく、映える写真撮影に明け暮れる日々。ところがフォロワーたちに知られ、大炎上、窮地に立たされる。一方的に上げて叩くSNSの怖さ。そのSNSに翻弄されながら前向きになっていく高校生たち。ただのハンド全力ではない、「#」の付いたハンド全力は現代を風刺した全く新しいスポ根青春もの。注目されなくなっても、日々は続いていく。復興と子役人生を重ねたというキャストは加藤清史郎&鈴木福の2ショットが公開前から話題。脇にも蒔田彩珠、仲野太賀、志田未来と子役出身がずらり。なかでも教師役の安達祐実の存在感は別格。(映画ライター・髙山亜紀)
聴き慣れたあの名曲の誕生秘話…『剣の舞 我が心の戦慄』(7月31日公開)
運動会のリレーのBGM、または突撃や追いかけっこシーンなどでお馴染みの名曲「剣の舞」。勝手に“狂騒”のイメージを抱いていた名曲の誕生には、こんなにもシリアスかつ劇的な物語が秘められていた!
第二次世界大戦、スターリン政権下のソ連。国立オペラ・バレエ劇場のお抱え作曲家アラム・ハチャトゥリアンは、公開を直前に控えたバレエ「ガイーヌ」における曲の書き換え、曲の追加命令を受ける…。何かとイチャモンを付ける小役人の思惑と陰謀、ダンサーをめぐる恋の糸が絡み、アラムの苦悩と闘いが映し出される。理不尽な国家の抑圧、“祖国アルメニアを襲った悲劇”への怒りや癒せぬ悲しみを、むしろ原動力に、一晩でかの名曲がまるでほとばしるように生まれ落ちる!小役人やダンサーらが架空のキャラとは少々驚き戸惑うが、聴き慣れたメロディが初めて耳にするかのような重みを伴って胸を締め付け、染みる。ラスト、当時の舞台の模様やハチャトゥリアンの指揮姿など、貴重な映像も見逃せない。(映画ライター・折田千鶴子)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/トライワークス