『MOTHER マザー』『新聞記者』のプロデューサーが語る映画製作の軸…「“アンチテーゼ”が映画と社会を発展させる」
「私たちが作る作品には“アンチテーゼ”の要素がなくてはならない」
2019年には女性新聞記者とエリート官僚の葛藤を描いた『新聞記者』が、第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞や最優秀主演男優賞(松坂桃李)、最優秀主演女優賞(シム・ウンギョン)を受賞するなど大きなムーブメントとなった。実在の事件をモチーフにするなど、現代の日本社会ともリンクし、体制批判とも受け取れる作品ではあるが、批判が目的ではないと河村は語る。
「“批判”ではなく“アンチテーゼ”です。かつてハリウッドでは、ベトナム戦争への反対デモや公民権運動が盛んだった時代に、『俺たちに明日はない』(67)や『卒業』(67)、『イージー・ライダー』(69)、『タクシードライバー』(76)といった反体制的な作品が支持されていました。若者による価値観を変えたいという思いもあり、それが映画や社会を発展させたのです。学びとしての古典も大切ですが、現代を生きる私たちが作る作品には常に、アンチテーゼの要素がなくてはならないのです」
「現代社会ならではの母と子の関係を描きたかった」
『MOTHER マザー』は主演の長澤まさみが育児放棄する奔放な母親役を演じたことでも注目されたが、実際に起きた17歳の少年による祖父母殺害事件を扱い、劇中の母と子の歪んだ愛の形も話題となった。本作で描きたかったことは「いまの社会でしか起こりえないこと」だと河村は説明する。
「『かぞくのくに』以来ずっと母と子の関係を描きたいと思っていました。それも現代社会ならではの母と子の関係です。過去にも、母から子への大きな愛、子から親への憎しみなど、様々な愛憎を描いた作品はたくさんありました。しかし、『MOTHER マザー』での母子の関係性はそのどれとも違います。本作ではそれを一つの象徴として表現したかったのです。また、テーマとしての尊属殺人、つまり親族の殺人はシェイクスピア劇やギリシャ神話でも頻繁に登場します。本作で扱った事件もまた、これまでにはなかったもので、とても衝撃を受けましたね」
映画プロデューサー河村光庸のもと、オリジナリティがあり、いまの社会だからこそ描け、大勢が楽しめるエンターテインメントであることを基盤に映画を製作してきたスターサンズ。公開中の『MOTHER マザー』はもちろん、過去の作品からその軌跡を感じ取ってほしい。
取材・文/平尾嘉浩(トライワークス)
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