大林宣彦監督が教えてくれたこと。山崎紘菜が告白「大林作品は女優としての故郷」
数々の女優を育て上げた大林宣彦監督の遺作となった『海辺の映画館-キネマの玉手箱』が7月31日(金)から公開となる。『この空の花 長岡花火物語』(12)、『野のなななのか』(14)、『花筐/HANAGATAMI』(17)、そして本作と、晩年の4作品に連続出演した大林映画の大切なミューズのひとりが、山崎紘菜だ。山崎は「大林監督は、私の女優としての故郷のよう。高校生のころに初めてお会いして、これまでずっと見守ってくださった。人生を変えてくれた人です」と大林監督への思いを吐露。「これからも映画を観れば、また大林監督とお話できる気がする」と語ると、彼女の頬を温かな涙がつたった。
大林監督が、20年ぶりに故郷である尾道で撮影を敢行した本作。閉館を迎えた尾道の海辺にある映画館を舞台に、最終日のオールナイト興行「日本の戦争映画大特集」を観ていた3人の若者たちが、スクリーンの世界にタイムリープ。戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、原爆投下前夜の広島をめぐり、そこで出会う人々の運命を変えようと奔走する姿を描く。今年4月10日に亡くなった大林監督。たくさんの映画ファンに愛された遺作は、映画と人間への愛、平和への願いが詰め込まれた、最高にエネルギッシュな作品として完成した。
「大林監督から『5つの役を用意したからね』と。いつもサプライズがあります」
山崎には今回、戊辰戦争で戦った「娘子隊」の女性、夫を戦地へと見送る沖縄の女性、原爆の被害を受けた移動劇団「桜隊」の劇団員など、5つの役が与えられた。
山崎は「大林監督からは、『5つの役を用意したからね』という一言がありました」とニッコリ。もちろん驚きもあったというが、「4作品でご一緒させていただいていますが、大林監督とのお仕事は毎回サプライズがある。現場でもたくさんの驚きがあるので、少し慣れた部分はあります。いつも『監督がそう望むなら』という心持ちでいます」としっかり受け止めた。
ダンスや歌も披露しており、「初めて挑戦することばかり。習うことも多かったですし、プレッシャーもありました」と吐露。そんな時にもいつも力をくれたのは、大林監督の存在だ。
本作の台本を読んで「前作の『花筐/HANAGATAMI』もそうですが、今回もものすごくパワーのある作品だ」と感じたそう。「私はいつも『監督のパワーに負けないように食らいついて行こう!』と思うんです。でもお会いするたびに、監督はさらにそれを超えてくる。進化するんです。『この方はどこまで行っちゃうのか』と思ったくらい」とふわりと微笑み、「『花筐/HANAGATAMI』のクランクイン前に監督のご病気がわかり、そんななかで今回また新しい作品でご一緒できることになって。その喜びをすごく感じていました。現場では、大林監督がいつも私たちを導いてくださいます。毎日、毎日、その姿を見られることが本当にうれしかったです」とプレッシャーをはねのける、たくさんの喜びがあったという。
「撮影現場では、魔法がかかる」
撮影現場で目にする大林監督の姿は、「無邪気で好奇心旺盛なまなざしでいろいろなものを見ている。少年のよう」だったという。「監督は(アイスキャンディの)ガリガリ君が大好きで。今回の現場は暑い日が続いていたこともあり、毎日、監督の『ガリガリ君が来たよー』という一声で休憩に入っていました。食べ過ぎて、みんな一度は『あたり』を引いたんじゃないかな?」と楽しそうに述懐。
数々の名女優が大林監督のもとで大きく羽ばたいていったが、山崎は「大林監督の現場では、『魔法がかかる』という実感がある」と大林組の印象を語る。「監督には、私の人間としての奥底までを見抜かれているような気がする。おそらく私という人間を見つめたうえで、演じる役を与えてくださっているので、人間としても引っ張り上げられるような気がするんです」。
それは山崎が高校生だった、『この空の花 長岡花火物語』での出会いから感じていたことだという。「この時はいち生徒役でしたが、愛情を注いで見守ってくれている感じがしていました。その後も、大林監督の作品では天真爛漫な役を演じることが多くて。すべて場を明るくするようなキャラクターだったように思います。私は、自分自身をおとなしいタイプだと思うんですが、監督は『場を明るくするようなところが、あなたの魅力だよ』と映画や役柄を通して言ってくださっていたかのよう。自分でも気づいていない魅力をたくさん引きだしてくださるのが、大林監督です」。