大林宣彦監督が教えてくれたこと。山崎紘菜が告白「大林作品は女優としての故郷」

インタビュー

大林宣彦監督が教えてくれたこと。山崎紘菜が告白「大林作品は女優としての故郷」

「大林監督の遺したメッセージを次の世代へ受け継いでいきたい」

【写真を見る】凛としたまなざしの山崎紘菜「大林監督に大きくなった私を見てほしい」
【写真を見る】凛としたまなざしの山崎紘菜「大林監督に大きくなった私を見てほしい」撮影/黒羽政士

デビュー間もない高校生のころから、ずっと見守ってくれた大林監督は「私の女優としての故郷のよう」と告白する。

「本作で私は、結婚して妻になる女性も演じました。結婚生活を描くシーンを撮った後に、大林監督が『“少女”が“女性”へと成長したね』と言ってくださって。それがすごくうれしかったんです。成長を見てくださっているからこそ出てくる言葉だし、大人の女性の役をいただけたこともうれしかった」としみじみ。「大林監督は、私の女優としての故郷のよう。自分の“帰る場所”のように思っているんです。いろいろな経験をして、たくさん学んで、また大林監督に『大きくなった私を見てほしい』と思いながら、いつもお仕事をしていたようなところがあります」。

山崎紘菜には5つの役が与えられた
山崎紘菜には5つの役が与えられた[c]2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

“大林的戦争三部作”とも言われる『この空の花 長岡花火物語』、『野のなななのか』、『花筐/HANAGATAMI』。その3作を経て放たれる、大林監督の集大成とも言える本作。山崎が出演した作品には、どれも戦争に対する辛辣なメッセージが底辺に流れている。演者として携われたことは、山崎にとっても宝物のような経験となったという。

「豊かな時代に生きている私たちには、戦時下の方々は苦しくて、大変な時代を生きていたと感じます。その一方、そんななかでも人々は喜びを見つけ、幸せを見つけていた。若者たちには青春もあった。一番に感じたのは、“誰もがみんな必死に生きていた”ということです。生きることに向き合い、必死にしがみつく。監督の映画からは、人々の“生きる強さ”を学んだと思っています」。

さらに「過ちを繰り返してはいけないということを、監督はいつも考え、映画で伝えようとしていらっしゃった。人の命が簡単に奪われる世の中になってしまってはいけない。次の世代の子どもたちに、そんな未来を与えてしまってはいけないと思っています」と強い眼差しを見せ、「本作では、(ヒロインの希子役を演じる)吉田玲ちゃんという新人の女優さんとご一緒させていただきました。大林監督は、そうやって若い世代にメッセージを遺そうとしてくださっている。私も監督のお考えを知っているひとりとして、監督がくださったメッセージを大切に、その炎を絶対に消さず、次の世代にきちんと引き継げるような女優にならないといけないと感じています」とバトンを受け継いでいく、確かな覚悟をにじませる。

「これからも映画を観れば、またお話できる気がする」

「監督は、人として生きるうえで大切なことも教えてくれた」
「監督は、人として生きるうえで大切なことも教えてくれた」撮影/黒羽政士

女優業のスタート地点に大林監督と出会えたことは、「宝物です。監督との出会いで、私の人生が動きだしたよう。もし出会いがなければいま、ここにいないのではとも思いますし、私の人生を変えてくれた人です」と感謝があふれだす。「大林監督が愛情をかけてくれた女優。そうなれたことは誇りです。この先もずっと、『自分には才能がないんじゃないか』と悩む瞬間って出てくるものだと思うんです。でも『大林監督が撮ってくださった女優なんだ』と思うと、きっと力が湧いてくる」と監督の存在がこれからも彼女を励まし続ける。

大林監督が亡くなり、「まだ、実感が沸かない」という山崎。「もちろんもうお会いすることはできないけれど、これからも映画を観れば、また大林監督とお話できる気がする」と声を絞りだし、思わず涙。「今回は監督の故郷である尾道で撮影が叶いましたが、そうすると現地のボランティアの方々がスタッフのように撮影を支えてくださる。人との触れ合いの大切さをひしひしと感じて、監督は『女優としてだけでなく、人として生きるうえで大切なことも教えてくれたんだな』と感じています。大林監督は、キャストだけでなく、スタッフ、地域の方々、その土地や自然にまで、すべてに愛情を注ぐような方で。だからこそ、ものすごく周囲に愛される。監督からたくさんの愛を受け取っていたからこそ、思いだすと温かな涙が出るんです」。

大きな愛情を注いで映画作りに励んでいた大林監督
大きな愛情を注いで映画作りに励んでいた大林監督

新型コロナウイルス感染拡大の影響から、一時は公開延期となった本作は、大林監督の“愛の塊”のようなひと作だ。映画館という場所にも、惜しみない愛情が注がれている。ぜひとも映画館で楽しんでほしい作品だが、山崎は「まずは自分の体調と相談して、身の安全を守ったうえで、映画館に来てくださったらとてもうれしい」と切りだし、「自粛中には家で映画を観たりしたんですが、やっぱりそのあとに映画館に行くと、特別感をものすごく感じました。“映画館の歴史”というものもの、どこか肌で感じているのかもしれません。みんなが守り続け、受け継いできたものの歴史を感じられるのも、映画館で映画を楽しむ魅力なのかなと思っています」と心を込めていた。

舞台挨拶やイベントでも、たくさんのキャストをステージに上げて、一人一人に愛情深く言葉を投げかけていた大林宣彦監督。山崎紘菜がそうであったように、“映画の力”を信じ、映画作りに励むその姿を目にすることは、記者としても至福の時間であった。「キネマの玉手箱」というタイトルにふさわしい、圧巻の179分をぜひ体験してほしい。

取材・文/成田おり枝

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